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小宮探偵事務所の日常  作者: 蒼 小夜
第3話 止まった時間
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6

数日後。


昼下がりの商店街。


まひろと篠原は、コムギベーカリーでパンを買っていた。


「そうそう。」


パンを袋に詰めながら、おばさんが嬉しそうに声を掛ける。


「最近ね、例の時計屋さん、窓が開いてるのよ。」


まひろは顔を上げた。


「そうなんですか。」


「この前なんて、高校生の息子さんが外で掃除しててねぇ。」


おばさんは、ほっとしたように笑う。


「やっぱり、人がいるっていいわね。」


まひろも、つられるように微笑んだ。


「……うん。」


店を出ると、二人は時計屋まで足をのばした。



時計屋の窓は開け放たれ、秋のさわやかな風が白いレースのカーテンを揺らしていた。


蔦はそのまま残っていたが、店先の花壇の雑草は綺麗になくなっている。


建物は相変わらず古いが、どこか小綺麗になった印象だ。大切に扱われている骨董品(アンティーク)のような雰囲気を感じる。



まひろたちが建物を見上げていると、その2階の窓の近くで人影が動いた。


律だ。


律は部屋の奥に向かって、なにか話しかけている。笑ったのか、その肩が楽しそうに揺れた。


それを見て、まひろも嬉しそうに頬を緩めた。


「良かったね。」


篠原も、小さく頷いた。


「ええ。」


もう、ここをお化け屋敷と呼ぶ人はいなくなるだろう。


古い時計屋の時間は、たしかに、再び動き始めていた。



◇



次の日の午後。


小宮探偵事務所。


玄関の呼び鈴が鳴る。


「こんにちはー!」


「お邪魔します。」


元気いっぱいの声とともに、莉子と結衣が入ってきた。


「あ、莉子ちゃん、結衣ちゃん。」


まひろが水槽の前で振り向いて立ち上がった。


「まひろさん!」


莉子は大きな封筒を抱えてまひろに駆け寄った。


「文化祭のチラシできました!」


嬉しそうな莉子に釣られるように、まひろも笑顔になる。


莉子は、封筒の中から1枚のチラシを出してまひろの目の前に広げた。


「お化け屋敷、絶対来てくださいね!」


「行かない。」


即答だった。


莉子が固まる。一瞬の後、


「えーーーーーっ!?」


事務所中に響く声。


「どうしてですか!?」


まひろは莉子の持つチラシから視線をそらした。


「……人、多いし。」


「そんな理由ですか!?」


「……うん。」


「結構怖くて楽しいと思いますよ?」


結衣も勧めるが、まひろは真顔で答えた。


「うん、無理。」


そのやり取りを聞いていた篠原は、小さく咳払いをして給湯室へ入っていく。


扉が閉まってすぐ。


「……っ、ふふっ……。」


笑いを堪える声が聞こえた。いや、堪えられていない。


まひろが給湯室へ向かって言う。


「篠原。」


一拍置く。


「聞こえてる。」


給湯室の向こうで、笑い声がぴたりと止まる。


やがて篠原が、何事もなかったような顔で戻ってきた。


「……失礼しました。」


けれど、口元はまだ緩んだままだ。


莉子が「お化け屋敷」のおどろおどろしいチラシを見つめて呟いた。


「……面白いのになぁ。」


結衣が、莉子の後ろからまひろを覗き込む。


「……やっぱり、ダメですか?」


まひろは少しだけ考えて、


「……考えとく。」


と言った。


莉子の顔がぱっと明るくなる。


「ほんとですか!?」


「考えるだけ。」


「えーーーーーっ!」


今度は事務所中に笑い声が広がった。



水槽の中では、小さな魚たちが相変わらずゆったりと泳いでいた。


お読みいただきありがとうございます。

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