第80回「姫さまのチャンネル登録」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
――王宮の会議室。
長い机を囲むように、王国の重臣たちが集まっていた。
議題は二つ。
ひとつは、魔王5号の討伐報告。
そしてもうひとつは――魔王予報士、レインの取り扱いについてだった。
騎士団長シグルドが、報告を始める。
「魔王5号については、騎士団による討伐を確認しております」
「被害状況は?」
「事前に避難を進めていたため、住民の死傷者はありません」
会議室に、短い沈黙が落ちた。
魔王予報――。
その力によって、今回も多くの命が救われた。
「では、もうひとつの議題に移ろう」
国王がそう告げると、会議室の隅に立っていた男が一歩前へ出た。
王宮の警備兵に紛れ、先日の感謝状授与式を見届けていた人物。
Sランク鑑定士、シラベルだった。
シラベルは警備兵に紛れて、その場でレインの様子を観察していた。国王から感謝状を受け取ったレインは、疑われていることなど知る由もなく、嬉しそうに笑っていた――。
「鑑定結果を報告します」
一同の視線が集まる。
「レインという女性に、魔王を召喚するような才能はありません」
室内がざわついた。
「召喚系ではない?」
シラベルは静かに続ける。
「彼女が本来持っているのは、天候を読む才能と思われます。雲や風、気圧など、天候の変化を感じ取る力でしょう」
「では、魔王予報は?」
「そこが特殊なのです」
シラベルは少し考えてから答えた。
「天候を読む才能に加えて、魔王の出現を察知する予知系の才能が発現しているものと思われます」
「予知……」
「正確な仕組みまでは分かりません。これほど特殊な才能は、鑑定だけですべてを読み取ることはできません」
国王が尋ねる。
「危険性は?」
「才能そのものに、特別な危険性は認められません」
張り詰めていた会議室の空気が、少しだけ緩んだ。
「それと……戦闘能力についてですが」
シラベルが、少しだけ言葉を濁す。
「本人の戦闘能力は、Fランク冒険者程度です」
「……そこまでか?」
「はい」
シグルドが苦笑する。
「しかし、本人は神ナリの剣を持っているぞ?」
「武器の性能と、本人の戦闘能力は別です」
「ちなみに、アイリス殿ですが……支援系と回復系の魔法使いですね。決して突出した魔法というわけではありませんが、女神の杖によって大幅に強化されています」
「賢者ミネルバ殿には遠く及びませんが、冒険者として見れば上澄みの実力です」
シグルドが感心したように頷く。
「なるほどな」
「ただし、これも装備ありきです」
「……本人の実力は?」
「良くてCランク冒険者程度かと」
シラベルは淡々と答える。
国王が少しだけ目を細めた。
「……なるほど」
「そして、ナイト殿ですが――」
「まだあるのか?」
誰かが思わず呟いた。
しかし、シラベルは完全に鑑定士の顔になっている。
「非常に興味深い才能です」
「ほう」
「筋肉がつきやすい体質のようです」
「…………」
会議室が静まり返る。
「そして、身体能力を底上げする強化系の自己バフがかかっています」
シグルドが腕を組む。
「つまり、あの筋肉は……」
「才能と強化効果の結果でしょう」
シラベルは真顔だった。
「なるほど……」
国王は頷いた。
「本人が鍛えているだけではなかったのだな」
「もちろん鍛錬もしているでしょう。しかし、あの肉体は才能によるところも大きいと思われます」
誰も聞いていない――。
それでもシラベルは続ける。
「ちなみに、筋肉のつき方から見ても――」
「……シラベル」
国王が静かに制した。
「そこまででよい」
「……失礼しました」
ようやくシラベルが口を閉じた。
会議室に、何とも言えない空気が流れる。
国王は改めて整理する。
レインは、魔王を召喚する危険な存在ではない。
アイリスは、女神の杖によって強化された支援・回復役。
そしてナイトは――筋肉がつきやすい。
何とも言えない空気が、会議室に流れた。
国王が話を整理する。
「つまり、レイン殿は魔王を呼び寄せる危険な存在ではない」
「はい」
「しかし、魔王の出現を予知できる、極めて希少な才能を持っている」
「その通りです」
国王は椅子に深く腰掛け、しばらく考え込んだ。
魔王を召喚する危険な存在ではない。
むしろ、魔王の出現を予知し、人々に知らせている。
その結果、実際に多くの命が救われている。
「ならば、今すぐ対処する必要はないだろう」
重臣たちも静かに頷いた。
「今後の扱いについては、引き続き検討する。だが、急いで結論を出すような案件ではない」
「異論ありません」
すると、別の重臣が口を開いた。
「それに、すでに王家との繋がりもございます」
「そうだったな」
国王が思い出したように笑う。
「アンリエッタか」
王女アンリエッタは、すでにレインたちの配信チャンネルを登録している。
そのことを知ったレインは、感謝状を受け取ったとき以上に嬉しそうな顔をしていた。
『えっ、アンリエッタ姫さまが登録してくれたの!?』
シグルドも、そのときのレインを思い出して笑う。
「王家との繋がりというより……アンリエッタさまが登録してくれたことを、素直に喜んでいましたな」
「それでいい」
国王も小さく笑った。
「王国と魔王予報士の関係は、まずそれくらいでいいだろう」
形式的な契約で縛る必要もない。
監視を強める必要もない。
必要になれば、こちらから協力を求めればいい。
「先日の感謝状授与の際にも、私から今後の協力をお願いした。レイン殿も快諾してくれた」
国王はそう言って、会議を締めくくる。
「ならば、今はそれで十分だ」
魔王予報士を王国の管理下に置く。
その結論は、まだ出さない。
ただ、王国とレインたちの間には、すでにひとつの繋がりができている。
――アンリエッタ王女の、チャンネル登録。
それは、とても小さな繋がりだった。
けれど、少なくとも今は、それで十分だった――。
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※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




