第70回「小さな魔王」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
――王都カルディア。
レインたちの緊急配信を受け、城下町では避難が始まっていた。
多少の混乱はある……。
それでも、人々は騎士団の誘導に従い、城壁の外へと移動していく。
「慌てず進んでください!」
「お子さんとお年寄りを優先してください!」
騎士たちが声を張り上げる。
一方、騎士団は住民の避難を支援しながら、魔王降臨に備えて警戒を続けていた。
魔王が降臨する時には、必ず前兆がある。
紫色の煙――。
それは、レインがこれまでの配信で何度も伝えてきた情報だった。
そして今では、その知識が騎士団全体に共有されている。
これもまた、王国がレインたちに撮影と配信を許可した理由の一つだった。
◇
王都中央広場――。
レインたちは王城を出て、中央広場から避難状況を配信していた。
広場には、避難を続ける人々の姿が見える。
レインは女神のカメラへ向かって、呼びかけた。
「まだ避難が終わっていません」
続いて、アイリスも視聴者へ語りかける。
「皆さん、落ち着いて行動してください」
その間も、ナイトは女神のカメラを操作しながら、広場の様子を映していた。
その時だった――。
何もなかった場所から。
紫色の煙が、ゆっくりと立ち上った……。
「中央広場です!」
レインが叫ぶ。
すぐさま、配信を見ていた騎士団長が反応した。
「中央広場か! 行くぞっ!」
待機していた騎士たちが、一斉に中央広場へ向かって走り出す。
紫色の煙は、さらに濃くなっていく。
やがて、その中心から――。
一つの影が姿を現した。
「……出た」
レインが呟く。
その魔王の身長は、およそ1メートル。
これまで現れた魔王たちよりも、明らかに小柄だった。
◇
騎士団長が中央広場に到着する――。
レインは集まった騎士団を確認し、緊張した表情で告げた。
「気を付けてください!」
レインは魔王の姿を見つめる。
「小さいですけど……」
一瞬、言葉を止める。
そして、はっきりと告げた。
「驚異魔王です!」
その言葉を聞いた瞬間、騎士団長が剣を抜いた。
「心得た!」
中央広場へ向かっていた騎士たちも、次々と武器を構える。
広場の空気が、一気に張り詰めた。
――今、この様子は……
レインたちの配信を通じて世界中へ届けられている。
コメント欄には、次々と書き込みが流れていた。
『王国なら勇者はいないの?』
『アルス様は?』
『カタリナ様も、ミネルバ様もいないの?』
レインはコメントを読み上げる。
そして、騎士団長を見る。
「ほんとだ……勇者様、いないのかな?」
騎士団長は少し苦笑した。
「勇者パーティは現在、魔物討伐のため王都の外へ出ている」
そして、困ったように肩をすくめる。
「タイミングが悪かったな」
「そっか……」
レインは少し残念そうに呟いた。
アイリスも頷く。
「こればかりは仕方ありませんね」
魔王の降臨は、誰にも予測できなかった。
だからこそ、勇者たちが王都を離れていることも不思議ではない。
しかし――。
王都に魔王が現れた。
ならば、ここにいる者たちが戦うしかない。
騎士団長は剣を構えた。
そして、後ろに並ぶ騎士たちへ力強く声をかける。
「大丈夫だ! この国には、騎士団がいる!」
「おおっ!」
騎士たちが一斉に応えた。
剣を構える者。
盾を握る者。
魔法の準備をする者。
誰一人として、退こうとはしない。
勇者はいない。
それでも――。
この国を守る者たちは、ここにいる。
レインはその光景を見つめていた。
「……頑張って」
小さく呟く。
王都カルディア。
その命運を懸けた戦いが――。
いよいよ幕を開けた。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




