第58話「魔王予報士の扱い」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
魔王4号の討伐を終えた翌日……。
王国騎士団長と勇者パーティは、カルディア王国の王城へ戻っていた。
目的は、魔王討伐の報告だ。
王宮会議室には、王国の上層部や政治を担う者たちが集まっている。
騎士団長が一歩前へ出た。
「ご報告いたします」
「魔王3号、そして魔王4号」
「両魔王の討伐を完了いたしました」
室内に、安堵の空気が広がる。
「被害状況は?」
「魔王3号では、死傷者多数……しかし、魔王4号については事前の避難が間に合ったため、住民の被害は大幅に抑えることができました」
その報告に、何人かの者が顔を見合わせる。
「……やはり、魔王予報の効果は大きいな」
「ええ」
騎士団長が頷く。
アルスも口を開く。
「今回、街の住民は魔王が現れる前に避難を完了していました」
「おかげで、戦いに集中することができました」
カタリナが続ける。
「それだけではありません」
「避難ができていたことで、救える命が増えました」
しばらく、室内が静かになる。
やがて、一人の政治部の幹部が口を開いた。
「しかし……」
その言葉に、視線が集まる。
「魔王予報士は、あくまで民間の配信者なのでしょう?」
「その民間人の発言をもとに、王国軍が動いている」
幹部は慎重な表情を浮かべた。
「これは、少し危険ではありませんか?」
別の者も同意する。
「予報が外れた場合はどうする?」
「もし誤った情報によって軍を動かし、国民に混乱が起きたら?」
「そもそも、一人の配信者の判断に軍事行動を左右されるべきではない」
室内に、さまざまな意見が飛び交う。
一方で、反対の意見もあった。
「ですが、実際に魔王の出現を予測している」
「その情報によって、今回の被害を減らせたのも事実です」
「魔王予報がなければ、避難が間に合わなかった可能性もあります」
意見は真っ二つに分かれていた。
魔王予報を信頼し、積極的に利用すべきだという者。
そして――。
民間人の発言を軍事行動に利用することに、懸念を示す者。
やがて、騎士団長が口を開く。
「一つ、確認していただきたい」
全員の視線が集まる。
「魔王予報士が、軍を動かしたいと言ったことは一度もありません」
「彼女が伝えているのは、魔王が現れる可能性と、その場所だけです」
アルスも頷いた。
「俺たちは、その情報をもとに自分たちで判断している」
「レインは、ただ……」
アルスは少し考える。
「人が死なないように、知らせているだけです」
その言葉に、室内が静かになる。
しかし、政治部の幹部はなおも難しい顔をしていた。
「それでも、今後どうするかは決めなければなりません」
「魔王予報士を、王国としてどう扱うのか」
「今まで通り、一民間配信者として扱うのか」
「それとも、王国が正式に協力を要請するのか」
「あるいは――」
幹部は言葉を区切った。
「王国の管理下に置くのか」
その瞬間、アルスの表情が変わった。
ミネルバも、カタリナも黙って顔を見合わせる。
レインたちの知らないところで――。
彼女たちの未来を左右する話し合いが始まっていた。
◇
魔王予報――。
その存在が、王国の中でも無視できないものになっていた。
一人の政治部幹部が、ゆっくりと口を開いた。
「魔王予報士の予報した魔王は、これまで四体」
幹部は資料を手に取った。
「魔王1号、2号、3号、そして4号」
「魔王予報士は1号と2号を討伐」
「そして今回、我々が3号と4号を討伐」
室内の者たちが頷く。
「少なくとも今のところ、予報に該当しない魔王が別に現れたという報告はありません」
幹部は資料を閉じた。
「つまり――」
「魔王予報士の予報には、ある程度の信頼と実績がある」
その言葉に、アルスは少し意外そうな顔をした。
反対派の人間が、レインの能力を認めているからだ。
しかし、幹部は続けた。
「だからこそ、私は言っているのです」
「これほど重要な情報を扱っている人物を、民間の配信者として放置しておくことは、本当に正しいのでしょうか?」
室内がざわめく。
別の幹部が口を挟んだ。
「しかし、彼女は国に命令しているわけではない」
「ええ。ですが、結果として彼女の予報を受けて、王国軍が動いている」
「もし今後、予報の規模がさらに大きくなれば?」
「王国全体を動かすような予報が出たら?」
反対派の幹部は、淡々と続けた。
「一人の民間人の言葉が、王国の軍事行動を左右する」
「これは、国家として看過できる問題ではありません」
アルスが眉をひそめる。
「でも、レインは人を助けようとしているだけです」
「それは理解しています」
幹部は即答した。
「彼女に悪意がないことも、これまで多くの人々を救ってきたことも否定していません」
「むしろ――実績があるからこそ、国として正式に扱う必要があるのではないか、と言っているのです」
別の幹部が頷く。
「確かに……」
「予報を無視することもできない」
「しかし、全面的に頼るのも危険だ」
「ならば、王国として一定の制度を作るべきでは?」
今度は賛成側から声が上がる。
「正式な協力関係を結ぶのはどうでしょう」
「予報を受け取る窓口を王国側に設ける」
「軍や各都市への情報伝達も、王国が担当する」
それならば――。
レインたちを王国に所属させる必要はない。
民間人として活動しながら、王国と協力することができる。
しかし、反対派はさらに別の案を出した。
「それだけでは不十分です」
「魔王予報士本人から、直接情報を得られる体制を作るべきでしょう」
「必要ならば、王国の管理下に置くことも検討すべきです」
アルスが立ち上がりかける。
「待って下さい!」
騎士団長が手で制した。
「アルス」
「……」
アルスは席に戻る。
政治の話は、戦場とは違う。
剣を振れば決着するものではない。
カタリナが静かに尋ねる。
「では……レインさん本人の意思は?」
室内が静まった。
その問いに、すぐには答えが返ってこない。
やがて、別の幹部が口を開く。
「当然、本人の意思も確認する必要があります」
「ただし――」
「王国として、何らかの対応を決めなければならないのも事実です」
アルスは黙って考えていた。
レインはただ、魔王が来ることを知らせたい。
できるだけ多くの人に、生きていてほしい。
それだけなのだ。
しかし、その力が大きくなるほど。
彼女の意思とは関係なく、国が動き始めている。
「……レインは、このことを知らないんだよな」
アルスの呟きに、騎士団長が静かに頷く。
「まだな」
王城の会議室では、議論が続いていた。
魔王予報を、国のために利用するのか。
民間の活動として見守るのか。
それとも、王国が正式に関わるのか。
答えは、まだ出ていなかった。
ただ一つ確かなに言えることは――。
彼女はもう、一人の配信者として片付けられる存在ではなくなっていた。
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※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




