第49回「笑顔を届ける配信」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
――カスミ湖。
相変わらず湖面は穏やかだった。
風も弱く、水面には小さな波紋が浮かんでは消えていく。
しかし――釣り糸は、ぴくりとも動かない。
レインとアイリスは並んで座り、それぞれ釣り竿を握っていた。
しばらく釣りの様子を見守っていたナイトが、ふと思いついたように口を開いた。
「魚が釣れるまで、たまった質問でも返すか?」
レインは釣り竿を持ったまま、ぱっと顔を明るくする。
「そうだねっ!」
「それ良い!」
アイリスも賛成した。
ナイトはいつものように画面には映らない。
女神のカメラの後ろから、渋い声だけで進行役を務める。
「では、最初の質問です」
ナイトがコメント欄を確認する。
「『魔王予報は、いつからできるようになりましたか?』だそうだ」
「ああ、それならゴロゴロ山の雷配信だねっ!」
レインが即答する。
アイリスも当時のことを思い出すように空を見上げた。
「あの時、雷に撃たれました……」
レインは嬉しそうに話す。
「で、その時に目覚めた感じですねっ!」
アイリスが慌てて補足する。
「雷に当たると魔王予報に目覚める、という意味ではありませんからね!」
「そこは誤解なきよう!」
レインも釣り竿を握ったまま、視聴者に向かって注意する。
「ゴロゴロ山は危ないぞっ!」
コメント欄が一気に流れ始めた。
『真似しません!』
『注意喚起助かる!』
『命は大事!』
『そりゃそうだ』
レインはコメントを見て、満足そうに頷いた。
「うんうん。良い心がけだねっ!」
ナイトは小さく息を吐く。
「……そもそも、真似するような奴はいないと思うがな」
そんなやり取りをしながら、ナイトは次の質問を探す。
「では、次の質問」
ナイトが読み上げた。
「『魔王の魔石について、王国の研究機関で非常に価値があるものと判明したそうです。どう思いますか?』」
「そうなんだー!」
レインは驚いたように目を丸くする。
「確か、視聴者プレゼントしたやつよね?」
「そうですね」
アイリスが頷く。
「当たった方、おめでとうございます!」
レインもカメラに向かって手を振った。
「当たった人! 王国に売った方が良いよー!」
ナイトもコメント欄を眺めながら、静かに口を開いた。
「研究に役立つなら、それが一番だな」
レインは嬉しそうに頷いた。
「うん! 誰かの役に立つなら嬉しい!」
その時だった……。
ピクッ。
レインの浮きが、小さく揺れた。
レインの動きが止まる――。
「……あっ!」
アイリスも湖面を見る。
「来た?」
ナイトもカメラの向こうから湖面へ視線を向けた。
三人の視線が、一斉に水面へ集まる。
穏やかな湖面に浮かぶウキが、ゆっくりと揺れている。
レインは釣り竿を握ったまま、じっと水面を見つめる。
そして――。
スッ。
ウキが、水の中へ沈んだ。
レインの目が輝く。
「来たっ!」
素早く釣り竿を大きく掲げた。
「合わせっ!」
グンッ!
竿が大きくしなる。
魚に釣り針が、しっかりとかかった。
レインは竿の感触を確かめながら、カメラへ向かって説明する。
「こうやってね、魚にしっかりと針をかけるんですよー!」
アイリスも隣から補足する。
「これをやらないと、釣り針が外れやすいです」
コメント欄が流れていく。
『なるほど!』
『勉強になる!』
『釣り配信っぽくなってきた!』
レインは釣り竿を上下に動かしながら、ゆっくりとリールを巻いていく。
「キタキター!」
魚は水中で必死に抵抗しているようだ。
竿が大きくしなり、レインの腕にも力が入る。
その横で、アイリスは網を構えた。
「良いよー!」
「巻け巻け巻けー!」
レインが声を上げながら、少しずつ魚を引き寄せる。
水面が大きく波打った。
バシャッ!
そして――。
銀色の魚が、水面から姿を現した。
「最高だっ!」
ナイトの渋い声が響く。
アイリスは魚の動きを見ながら、タイミングを合わせる。
ザバッ!
網が水面へ差し込まれた。
魚が網の中へ入る。
「やったー!」
レインが嬉しそうに声を上げる。
コメント欄も一気に盛り上がる。
『おめでとう!』
『大物だ!』
『見てるこっちも嬉しい!』
『やっと釣れた!』
『静止画じゃなくなった!』
レインは釣り上げた魚を両手で持ち上げる。
その隣では、アイリスが嬉しそうに笑っている。
魚を手にしたレイン。
その隣で笑うアイリス。
そして――。
カメラの後ろで、ナイトも静かに微笑んでいた。
「この笑顔、俺は世界に届ける!」
女神のカメラが、二人の笑顔をしっかりと映し出す。
ただ魚が一匹釣れただけ……。
だけど――。
画面の向こうには、その笑顔を見て笑っている人たちがいる。
今日も女神のカメラは、最高の笑顔を世界へ届けていた。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




