第38回「ガラガラの宿」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
温泉を満喫したレインたち……。
宿に併設された食事処で夕食をとる。
テーブルの上には、湯気の立つ料理が並んでいる。
久しぶりの温泉。
そして、旅先で食べる温かい料理。
三人とも、自然と箸が進んでいた。
「おいしい~!」
レインは嬉しそうに料理を頬張る。
「温泉の後だから、なおさらね」
アイリスも笑いながら食事を続ける。
ナイトも満足そうに頷いた。
「旅先の飯は最高だ」
三人は、久しぶりにのんびりとした夕食の時間を楽しんだ。
食事を終える頃には、すっかり身体の疲れも抜けていた。
レインが食器を置き、席を立とうとする。
その時……。
「お客様」
宿の従業員が、三人に声をかけた。
「はい?」
レインが振り返る。
従業員は、少し寂しそうな笑みを浮かべていた。
「魔王騒ぎの影響で、お客様がほとんど来なくなってしまいまして……」
レインたちは、食事処を見渡した。
広い店内……。
けれど、そこにいる客はほとんどいない。
温泉街の宿にしては、あまりにも静かだった。
従業員は続ける。
「もし素泊まりでよろしければ、一人銀貨一枚で三泊していただいて構いません」
「えっ!?」
レインが驚いて声を上げた。
アイリスも聞き返す。
「三泊で銀貨一枚ですか?」
「はい」
従業員は頷いた。
「食事は付きませんが、それでもよろしければ」
アイリスは少し考える。
銀貨一枚で三泊……。
これまでの野営を考えれば、かなり安い。
「銀貨一枚で三泊なら、かなり安いわね」
ナイトも腕を組んだ。
「泊まるか?」
アイリスは頷いた。
「ええ、そうしましょう」
その瞬間。
レインの顔がぱっと明るくなった。
「やったー!」
久しぶりのベッド。
それだけで、レインには最高のご褒美だった。
でも――。
少し考えて、レインの表情が曇る。
「こんなにお客さんが少ないのって、やっぱり魔王予報のせいだよね……ごめんなさい……」
その言葉に、従業員は優しく首を振った。
「危険かもしれないと教えていただけたことには、感謝しています」
従業員は穏やかに続けた。
「何も知らずにお客様が来ていた方が、もっと大変でしたから……」
レインは黙って、その言葉を聞いていた。
魔王が現れる可能性がある。
それを伝えたことで、観光客は減った。
宿も空いている。
街にとっては、決して良いことばかりではない。
それでも――。
何も知らないまま、人々がこの街へ来ることを防げた。
従業員の言葉が、レインの胸に静かに染み込んでいく。
「……ありがとうございます」
レインは、小さく頭を下げた。
従業員も笑顔で頷いた。
こうして三人は、ユノハナタウンの宿に泊まることになった。
格安の三泊。
そして何より――。
今夜は、久しぶりの柔らかなベッドで眠れる。
「ベッド……」
レインは、これから待っている快適な眠りを想像する。
「今日はぐっすり眠れそうだねぇ」
「そうね」
アイリスが笑う。
ナイトも頷いた。
「たまには宿も悪くないな」
魔王が来るかもしれない街。
その影響で、静まり返った宿。
それでも今夜は――。
旅の疲れを癒やす夜となりそうだった。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




