第35回「護衛の依頼」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
――ユノハナタウン役場。
町長は、静かに窓の外を見つめていた。
温泉街には、いつもと変わらない景色が広がっている。
立ち上る湯けむり。
並ぶ旅館や商店。
行き交う観光客や住民たち。
しかし――。
町長の頭からは、先ほど聞いた言葉が離れなかった。
魔王降臨確率60%――。
町長はしばらく黙っていた。
そして、静かに口を開く。
「……何もしないで、本当に魔王が現れたら」
窓の外から視線を外す。
「それこそ、取り返しがつかない」
副町長が頷いた。
「では、王都へ騎士団を要請しますか?」
町長は首を横に振る。
「いや」
少し考えてから、続けた。
「そこまではしない」
大規模な騎士団を呼べば、街への影響も大きい。
観光客や商人を不安にさせることにもなる。
それに――。
先日のサンドタウンでは、30%の予報が外れている。
今回も魔王が現れなければ、王国を大きく動かしたことが問題になるかもしれない。
町長は報告書に目を落とす。
「とは言え、最低限の備えは必要だ」
町長は決断した。
「冒険者ギルドへ依頼を出そう」
副町長が頷く。
「護衛依頼ですね」
副町長が依頼書を準備する。
その横で、町長は小さな声で呟く。
「……魔王降臨確率は60%か」
深く息を吐く。
「これで騎士団を呼んで、また何も起きなかったら……」
副町長も難しい顔をする。
「王国からすれば、二度続けて大規模な戦力を動かすことになりますからね」
「そうだ」
町長は報告書を指で叩いた。
「60%なら、呼ぶ理由は十分にある」
だが――。
「サンドタウンの件があったばかりだ」
町長の表情が曇る。
「レインとかいう配信者もな……」
「もう少し考えて予報を出してほしいものだ……」
副町長が少し驚く。
「町長……?」
町長は報告書を見つめた。
「60%だぞ?」
「高い。確かに高い」
「だが、40%は来ないんだ」
そして――。
「そんな数字を前にして、国へ『騎士団を出してください』と言えるか?」
副町長は黙って聞いていた。
町長の苛立ちは、少しずつレイン本人へ向かっていく。
「せめて……」
一度、言葉を止める。
「絶対に来ると言い切ればいいものを……」
「……それでは予報ではありませんよ」
副町長が苦笑する。
「分かっている!」
町長は思わず声を荒らげた。
「分かっているから困っているんだ!」
そして――。
「30%の次が60%だ」
「これで騎士団を呼んで、また外れたらどうする?」
「街の商人たちからも、王国からも、何を言われるか分からん」
町長は椅子へ背を預けた。
しばらく黙ったあと――。
ぽつりと呟く。
「……それに、予報を出した本人は安全なところから知らせるだけだ」
副町長が顔を上げる。
「町長、それは……」
町長は窓の外へ目を向けた。
「こちらは、その予報を信じて街を動かさなければならない」
そして――。
「だが、当の予報士たちは、発言した内容に責任はない……」
「はい」
「……気楽なものだな」
その言葉には、苛立ちと不安が滲んでいた。
副町長はそれ以上何も言わず、依頼書を書き進める。
やがて、顔を上げた。
「ところで、冒険者への報酬はいかがいたしますか?」
町長は少し考えた。
「……前金で銀貨二枚」
そして――。
「もし魔王が現れて、討伐に参加した者には追加で銀貨三枚を支給する……」
「承知しました」
副町長が依頼書を手に取る。
町長は窓の外へ目を向ける。
街は、いつもと変わらない。
町長は小さく呟いた。
「本当に魔王は来るのか?」
その声には――。
苛立ちと不安が混じっていた。
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この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




