第34回「ユノハナタウン町長の判断」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
――ユノハナタウン。
豊かな温泉と美しい景色で知られる、観光の街。
これまで多くの旅人が訪れ、温泉を楽しみ、街の景色を眺め、旅の思い出を作ってきた。
しかし――。
今、その街には重苦しい空気が流れていた。
レインの魔王予報。
降臨確率、60%――。
その知らせは、すでに街中へ広がっていた。
旅館では、予約のキャンセルが相次いでいる。
商店街も、普段より明らかに人通りが少ない。
「魔王が来る街なんて行けないよ」
そんな声が、あちこちから聞こえていた。
それは……レインの魔王予報を信じているからこそ……。
魔王予報を聞く事で、早めに街を離れる者もいる。
だが――。
一方では、疑う声も増え始めていた。
「サンドタウンは外れたじゃないか」
「今回も大丈夫だろ」
「配信者の話を信じるなんてな」
「60%って言っても、来ない可能性はあるんだろ?」
そんな噂が広がるにつれて、別の人々も街へ集まってきた。
そして、魔王予報を話題に便乗する配信者たち。
「ユノハナタウンから緊急配信です!」
「本当に魔王が来るのでしょうか!」
街の不安そのものが、一つの話題になり始めていた。
――ユノハナタウン役場。
町長は机の前で頭を抱えていた。
机の上には、街の被害状況や宿泊施設からの報告が並んでいる。
観光客の減少。
予約のキャンセル。
商店への影響。
そして――。
魔王予報。
副町長が静かに尋ねる。
「王都へ騎士団を要請しますか?」
町長は目を閉じた。
「……」
これまで、この街に魔王が現れたことはない。
誰一人として、魔王を見たこともない。
そんな街に、大軍を呼ぶ。
それだけでも、住民や観光客の不安をさらに煽ることになる。
そして、もし魔王が現れなかったら――。
街への影響は、さらに大きくなるかもしれない。
観光の街であるユノハナタウンにとって、その影響は計り知れなかった。
町長は、しばらく考え込んでいた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
「……騎士団は呼ばない」
副町長が驚いた表情を見せる。
「よろしいのですか?」
町長は静かに頷いた。
「王国騎士団が動いたサンドタウンにも、魔王は現れなかった」
そして、窓の外へ視線を向ける。
「今回も、外れる可能性はある」
副町長は黙って聞いている。
町長は続けた。
「街の混乱を、これ以上広げるわけにはいかない」
それは、街を守るための判断でもあった。
魔王が来るかもしれない。
しかし、来ないかもしれない。
そんな不確かな情報だけで街を大きく動かしていいのか。
町長自身にも、答えは出せなかった。
副町長は複雑な表情で頷く。
「……承知しました」
町長は再び窓の外を見る。
そこには、いつもと変わらないユノハナタウンの景色が広がっている。
湯けむりが立ち上る温泉街。
美しい山々。
そして、静かに歩く人々。
町長は、小さく呟いた。
「……すまない」
誰に向けた言葉なのか。
自分自身にも分からない。
「私は、レインという予報士の『才』を、まだ信じ切ることができない」
魔王予報――その力が本物なのか。
サンドタウンの予報が外れた今となっては、なおさら判断が難しかった。
町長の決断は下された。
騎士団は呼ばない。
街は、普段通りの日常を続ける。
ただし――。
その決断が、数日後にどのような結果を招くのか。
まだ、誰も知らなかった。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




