第32回「魔王は降臨せず」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
レインの魔王予報――。
現在、世界に発表されている予報は二つ。
ユノハナタウン……降臨確率60%――。
サンドタウン……降臨確率30%――。
そして――。
今日は、サンドタウンの予報当日だった。
サンドタウンでは、朝からカルディア王国の騎士団が街の各所を警備していた。
城門、広場、街道……。
騎士たちはそれぞれの持ち場に立ち、周囲へ警戒の目を向けている。
街の人々も、普段とは少し違った様子で騎士たちを見ていた。
魔王が本当に現れるのか。
それとも、何も起きないのか。
誰にも分からない。
◇
一方その頃――。
ユノハナタウンへ向かう乗合馬車の中。
レインは魔法通信端末を見つめていた。
他の配信者たちが、サンドタウンの様子を現地から配信している。
城門の様子。
街の広場。
警備する騎士たち。
さまざまな映像が、次々と魔法通信を通じて届いていた。
レインは画面を見ながら呟く。
「騎士団が街を警備してるよ」
アイリスも画面を覗き込む。
「良かったわね」
「うん」
レインは小さく頷いた。
そして、画面から目を離さずに続ける。
「このまま来なければ……いいなぁ」
魔王が現れなければ、それが一番いい。
ナイトも静かに頷いた。
「そうだな」
馬車は、変わらず街道を進んでいく。
サンドタウンでは警備が続く。
そして――。
時間だけが過ぎていった。
レインは何度も情報端末を確認する。
新しい配信。
新しい速報。
サンドタウンの様子。
しかし――。
『魔王出現』
そんな文字は、どこにも表示されなかった。
昼を過ぎても。
夕方になっても。
夜になっても。
何も起こらない。
レインは、画面を見つめたまま黙っていた。
「……」
そして、ぽつりと呟く。
「来なかったなぁ」
その日は、何事もなく終わった。
サンドタウンに魔王は現れなかった。
街を警備していた騎士たちも、無事に一日を終えることになった。
そして、翌朝――。
レインは静かに目を閉じていた。
「……集中」
周囲の音を意識から遠ざける。
魔力の流れを感じ取る。
魔王予報。
その力に意識を集中させる。
しばらくして――。
レインは、ゆっくりと目を開いた。
「あっ!」
アイリスが振り向く。
「どうしたの?」
レインは、少し安心したように笑った。
「サンドタウンの魔王降臨確率……」
そして、はっきりと告げる。
「0%になった!」
ナイトが静かに確認する。
「完全に予兆が消えたのか」
「うん!」
レインはすぐに女神のカメラへ向き直った。
ナイトもカメラを取り出す。
「配信、開始」
魔法通信が世界へと繋がる。
レインが画面の向こうへ向かって、明るく挨拶する。
「皆さん、おはようございます!」
そして、続ける。
「サンドタウンの魔王降臨確率は、0%になりました!」
アイリスも頷いた。
「今回は、魔王は降臨しませんでした」
レインは、心から嬉しそうに笑う。
「何事もなく終わって、本当に良かったです!」
コメント欄が一気に流れ始める。
『助かった!』
『来なくて良かった!』
『騎士団もお疲れさま!』
『サンドタウン無事だった!』
レインも、そのコメントを見ながら笑顔を浮かべる。
しかし――。
その中に、少しずつ違う言葉が混じり始めた。
『結局、来なかったじゃん』
『騒がせただけじゃない?』
『30%なんて適当だったんじゃ?』
『王国騎士団まで動いたのに……』
レインの表情が、わずかに止まる。
それでも、配信中だった。
レインは笑顔を崩さない。
「それでは、今日はこの辺で!」
アイリスも挨拶する。
「皆さん、ありがとうございました」
ナイトが静かにカメラを下ろした。
「配信終了」
魔法通信が切れる。
画面が消えた。
馬車の中に、静かな空気が戻ってくる。
レインは、先ほどまで表示されていたコメントを思い返していた。
魔王は降臨しなかった……。
サンドタウンの人々は無事だった。
騎士団も、街を守ることができた。
何も起こらなかった。
それでいい。
本当に、それでいいはずだった。
けれど――。
「……」
レインは、少しだけ曇った表情で窓の外を見る。
魔王予報が外れた。
そう受け取る人がいる。
そして、それは当然のことなのかもしれない。
30%降臨する予報。
それはつまり、70%は降臨しないという事。
それでも……。
世界で唯一の魔王予報士。
その肩書きを持つレインにとって、今回の結果は決して小さな出来事ではなかった。
魔王は降臨しなかった。
それは喜ばしい結果だった。
だけど同時に――。
魔王予報士レインの心に、小さな穴が空いた。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




