第29回「特別配信」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
乗合馬車は、街道を走り続けていた――。
車輪が規則正しく地面を叩き、車内が小さく揺れる。
ユノハナタウンまで、あと数日……。
三人の間には、いつものような明るい会話はなかった。
先ほど判明した、もう一つの魔王予報。
ユノハナタウンとは、ほぼ反対方向にあるサンドタウン。
降臨予想は二日後。
確率は30パーセント。
三人は、それぞれ静かに考え込んでいた。
やがて、ナイトが口を開く。
「悪い情報は早く」
それは、ナイトがいつも口にしている言葉だった。
情報は、早く届ける。
特に、人々の命に関わるような悪い情報ならなおさらだ。
ナイトはレインを見る。
「配信するか?」
レインは、少し考えた。
そして、頷く。
「うん」
レインは前を向いた。
「言うだけなら、すぐだし」
「よし」
ナイトは右手を前へ差し出した。
すると、何もなかった空間が淡く輝き始める。
光が集まり、形を作っていく。
そして――。
ナイトの手元に現れたのは、女神から授かった魔導カメラ。
女神のカメラだった。
アイリスが、その様子を見て微笑む。
「便利よね、収納付きの装備……」
「ああ」
ナイトはカメラを手に取る。
「神ナリの剣も、女神の杖も同じだ」
必要な時だけ、異空間から取り出すことができる。
レインも感心したようにカメラを見る。
「女神さま、すごいよねぇ」
三人に与えられた力は、こうしたところでも役に立っていた。
ナイトはカメラを肩に担ぐ。
「よし!」
そして、いつものように静かに宣言する。
「配信開始だ!」
魔法通信が起動する。
世界へと繋がっていく。
画面が開くと、すぐにコメントが流れ始めた。
レインは、いつもの明るい表情ではなく、真剣な顔でカメラを見る。
「皆さん、こんにちは! 特別配信です!」
隣にいるアイリスも、静かに頷いた。
そして、視聴者へ向けて告げる。
「魔王予報の追加情報です」
コメント欄が、一気に動き始めた。
『また予報!?』
『何があった!?』
『配信来た!』
『新しい魔王!?』
レインは流れていくコメントを見ながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「新たに、サンドタウン付近で魔王予報を観測しました」
画面の向こうの人々が、固唾を呑んで見守る。
「降臨予想は二日後」
そして、最も重要な情報を伝える。
「降臨確率は30パーセントです」
アイリスが続けた。
「現在、私たちはユノハナタウンへ向かっています」
「そのため、サンドタウンへ向かうことはできません」
コメント欄に、戸惑いの声が流れる。
『えっ……』
『二か所同時なの!?』
『誰が助けに行くんだ?』
『サンドタウンの人、大丈夫なの?』
レインは、それらのコメントを見つめる。
そして、落ち着いた声で話し始めた。
「確実に降臨するとは限りません」
魔王予報は、未来を決めるものではない。
だからこそ、30パーセントという数字を、30パーセントのまま伝える。
「ですが、降臨する可能性があります」
アイリスも静かに続ける。
「可能であれば、避難や備えをご検討ください」
それ以上、不安を煽るようなことは言わない。
ただ、判断するために必要な情報を届ける。
レインは画面の向こうを、真っ直ぐ見つめた。
「詳しい情報が入りましたら、すぐに配信します」
アイリスが頭を下げる。
「よろしくお願いいたします」
ナイトは、それを確認すると静かにカメラを下ろした。
「配信終了だ」
魔法通信が切れる。
画面が消え、車内に静けさが戻った……。
三人を乗せた馬車は、何事もなかったかのように街道を進んでいく。
目指す場所は、ユノハナタウン……。
しかし――。
その頃、サンドタウンでは、先ほどの特別配信が人々の間に広がり始めていた。
「魔王が……来るかもしれない?」
「二日後って言ってたぞ」
「30パーセントらしい」
「でも、30パーセントなら……」
街のあちこちで、そんな声が聞こえ始める。
まだ、何も起きてはいない。
それでも……。
一つの予報が、人々の行動を変え始めていた。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




