【改稿】第20回「討伐の後に」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
北東の森――。
魔王1号が消滅した森は、すっかり静けさを取り戻していた。
空は茜色から、ゆっくりと夜の色へ変わっていく。
レインたちは湖畔でキャンプをしている。
今夜はここでキャンプ泊し、明日の朝にはホミラタウンへ戻る予定だ。
焚き火が、静かに炎を揺らしている。
パチッ――。
小さく乾いた音がして、綺麗な火の粉が夜空へと舞い上がった。
その暖かな光を眺めながら、レインがふと口を開く。
「明日の朝は、ここでお天気配信だね」
「……寝坊しないでよね」
アイリスがジトッとした目で釘を刺す。
すると、レインは心外だなぁと言わばかりに少し大げさに目を見開いた。
「えぇー? あたし、寝坊したことなんてないよね?」
ナイトは間髪入れずに即答する。
「あっただろ?」
「……」
レインは少し考え込む素振りを見せる。
そして、何事もなかったかのように頷く。
「うん、長い目で見ればあったね?」
アイリスが呆れたようにため息をつく。
「なんでごまかそうとしたのよ」
「いけるかなーって思って」
「いけるかっ!」
ナイトの鋭いツッコミが、夜の森にパーンと響き渡る。
三人は顔を見合わせる――。
「「「ハッハッハ!」」」
声に出して、楽しそうに笑う。
魔王との命がけの激戦を終えたばかりだというのに、三人の間にある空気はいつもの日常と少しも変わらない。
三人は幼なじみ――。
だからこそ、こんな他愛もない時間が、たまらなく心地よかった。
魔王1号との戦いがあった夜だとは思えないほど、穏やかな時間が流れていく。
◇
しばらくして――。
焚き火の炎を見つめていたレインが、ピコンと何かを思いついたように顔を上げた。
「あっ、そうだ!」
突然の声に、アイリスとナイトが首を傾げる。
「魔王1号の配信、まだコメント残ってるし……ちょっと返そうかな?」
ナイトは半分感心、半分呆れといった表情で笑う。
「レインは本当に忙しいな」
アイリスも焚き火を眺めながら穏やかに微笑む。
「でも、待ってる視聴者もいるかもしれないわね」
「じゃあ、ちょっとだけやろうよ!」
レインが元気よく頷くのを見て、ナイトが手元の女神のカメラを軽く持ち上げる。
その様子を眺めていたアイリスが、ふと気になったように首を傾げた。
「そういえば……」
アイリスはカメラの本体を指差す。
「そのカメラって、どこかに固定できないの?」
レインもあっと声を漏らし、ナイトへと視線を向けた。
「ずっと持ってると疲れちゃうよね」
ナイトは少しだけ口元を緩める。
「それなら……」
ナイトは女神のカメラへと魔力をふわりと流し込む。
すると――。
カチッ、カチッ、カチッ!
心地よい機械音を立てながら、カメラの下部から三本のしっかりした脚がスルスルと伸びていった。
二人は驚きの声をあげる。
「おぉ……!」
レインは興味深そうに身を乗り出した。
「固定カメラになった!」
アイリスも感心したように頷く。
「すごいわね。……ってことは、ナイトも一緒に映れるんじゃない?」
しかし、ナイトは即座に首を横に振る。
「いや、いい」
カメラの位置を微調整しながら、淡々と答えた。
「俺は裏方だからな。映るのはお前たちだ」
レインはそんなナイトの横顔を見つめ、ふっと柔らかく笑った。
「……ほんと、ナイトらしいね」
やがて、カメラのセッティングが完了する。
固定された画面には、夜の闇に浮かぶ三人と、パチパチと燃え盛る焚き火がしっかりと収まっていた。
暖かな光。
静まり返った森。
そして、どこまでも高い夜空。
レインはカメラのレンズへ向かって、元気よく手を振った。
「皆さん、こんばんは!」
いつものお天気キャスターのような、とびきりの笑顔を咲かせる。
「突発ですが――コメント返しのお時間です!」
アイリスも隣でフワリと微笑む。
「今日は魔王1号討伐、本当にお疲れさまでした」
その一言を皮切りに、配信のコメント欄が猛烈な勢いで流れ始める。
『こんばんは!』
『まだ配信してる!』
『今日は本当にすごかったぞ!』
『二人ともゆっくり休んでくれー!』
『あれ、ナイトさんは? 映ってー!』
レインは流れていく画面を追いかけながら、嬉しそうに目を細めた。
どうやら、カメラに映らないナイトを心配する視聴者も多いらしい。
夜の森――。
パチパチと薪が爆ぜる音と、静かな風の音。
その小さな空間で、三人は届いたコメントを一つずつ丁寧に拾い上げていくのだった。
◇
コメント返しの配信も終え、三人の時間が訪れる。
「今日も、いろいろあったねぇ」
レインがオレンジ色の炎を眺めながら、ぽつりとつぶやく。
「本当にね。いろいろ起きすぎたわ」
アイリスも軽く背伸びをしながらつぶやく。
「まあ……全員が無事で、こうして終わって良かったな」
ナイトはカメラの傍らに腰を下ろし、静かに火の粉を目で追っていた。
三人は顔を見合わせ、小さく笑った。
世界初の魔王討伐配信――。
そんな歴史的な一日の終わりは――。
パチパチと響く穏やかな焚き火の音と、三人の絶えない笑い声に優しく包まれていた。
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