【改稿】第17回「手探りの魔王戦」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
北東の森――。
木々の向こうから、巨大な魔王1号がゆっくりと姿を現す。
体長は約三メートル。
黒と紫の体色を持ち、両腕には大きく鋭いツメが伸びている。
その姿から放たれる圧倒的な存在感は、レインたちが知っている普通の魔物とは明らかに違っていた。
まさに――魔王!
コメント欄には、驚愕のコメントが怒涛の勢いで流れていく。
『魔王なの? でかくね?』
『いや、これムリだって!』
『ガチの魔王じゃん……』
『あ、これ絶対ダメなやつだ』
『サイズ感がおかしい』
『これ勝てる要素ある?』
『画面越しでも圧やばくない?』
『逃げろ逃げろ逃げろ!』
レインは神ナリの剣を握り身をかがめる。
その表情からは、いつもの明るさはすっと消えていた。
レインはカメラの向こうにいる視聴者へ声を張る。
「ごめんね! ここからは戦闘だから、あまり話せないかもー!」
アイリスも杖を握り直し、レインに視線を向ける。
「レイン、集中して!」
その横で、ナイトは女神のカメラを構えながら一歩前へ出る。
「レインは神ナリの剣の準備だ」
ナイトは魔王1号から視線を外さない。
「ここは俺が時間を稼ぐ!」
「分かった!」
レインは短く答えると、その場で静かに目を閉じる。
レインは神ナリの剣を掲げると、ゆっくりと魔力を流し込む――。
吸い込まれた魔力が青白い雷となって、刀身全体を覆いつくしていく。
バチッ。
バチバチッ。
小さな雷鳴を響かせながら、剣に確かな力が集まっていく。
その間も、配信はリアルタイムで続いていた――。
ナイトは巨大な魔王1号を真正面から見据える。
カメラを構えたまま、重苦しい静寂が辺りを包み込む。
そして、ナイトは小さく息を吐く――。
「ふぅ……マジで怖いな!」
コメント欄が一気に流れた。
『見てるだけで怖い』
『ナイトさん気をつけて!』
『戦うの!?』
『逃げた方がいいって!』
『魔王1号!』
『待って、ナイトさん武器は!?』
『え、盾すらないの……?』
『ただのカメラマンが魔王のタゲ取ってるんだが』
『それただの自撮り棒じゃん!』
『死ぬじゃん! 絶対死ぬじゃん!!』
『丸腰で魔王に挑む男、頭おかしい(褒め言葉)』
『ストリーマーの狂気を見た』
その瞬間だった――。
魔王1号が大きく地面を蹴る!
ドンッ!!
土煙が舞い上がる。
グワァァァッ!!
巨体が凄まじい速度でナイトへ迫る!
「来た!」
ナイトが身構えた直後――鋭いツメが容赦なく振り下ろされた!
ガキィィン!!
ナイトは咄嗟に女神のカメラを盾のように掲げて受け止める。
激しい衝撃音が森に轟き、カメラを介してナイトの全身を駆け抜けた。
「ぐわっ!」
画面が大きく傾き、激しくブレる。
リアルタイムの映像に、視聴者からも悲鳴のようなコメントが殺到した。
『画面が近すぎて草』
『アングル神だけど命が危うい』
『カメラ目線の魔王怖すぎ!!』
『3D映像の臨場感えぐい』
『近い近い!』
『すごい迫力!』
『これガチのやつだ、生きて帰ってくれ……』
『カメラ壊れないの!?』
ナイトはそのまま後ろへ大きく飛び退く。
「くっ……」
なんとか体勢を立て直すと、すぐさま手元のカメラをチェックする。
――壊れていない。さすがは女神製だ。
レインが、ナイトと魔王の戦いを見ながらつぶやく。
「女神さまが言ってたよね、魔王との戦いに耐えうるカメラだって……」
アイリスは苦笑いをしながら言う。
「いや、女神さまも盾のように使うなんて想定してないと思うけど……?」
二人のツッコミはどこ吹く風で、ナイトは魔王とタイマンを張っている。
「被写体がフレームの外だ!」
死線にありながら、撮影者としての執念だけは微塵も揺らがない。
素早く間合いを取り直し、魔王1号を再び画面の中央へと捉える。
その直後――。
アイリスが鮮やかに杖を掲げた。
「身体強化!」
柔らかな光がナイトの身体を包み込む。
間髪入れず、重ねて呪文を紡ぐ。
「視覚強化!」
光の層がさらに重なる。
その瞬間、ナイトの視界が一気にクリアになる。
魔王1号の筋肉の動き。
ツメの角度。
足の踏み込み。
次に繰り出される動線までもが、鮮明に脳裏へと浮かび上がる。
ナイトが目を見開く。
「おお……! すごいな!」
アイリスは杖を掲げたまま、凛とした声を飛ばす。
「これで動きが追いやすいはずよ!」
「助かる!」
ナイトは再び魔王1号と対峙する。
カメラを構えたまま、一歩も退かない。
魔王1号もまた、地響きのような唸りを上げて低く身を構える。
ナイトの後方では、レインが静かに魔力を送り続けている。
神ナリの剣に集まる青白い雷は、刻一刻と輝きを増していく。
バチッ。
バチバチッ。
三人は魔王との戦いに慣れてはいない――。
ナイトは、初めて魔王を相手にタンク役を引き受ける。
アイリスも、戦闘中に支援魔法を使うのは初めてだ。
レインもまた、今まで経験したことのない力を神ナリの剣へ集めている。
誰もが、初めて。
だからこそ――。
三人は手探りで、一歩ずつ前へ進んでいく。
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。




