【改稿】第15回「目玉焼き論争」
翌朝――。
日が昇り始め、明るくなった湖畔で朝ごはんを食べる三人――。
今日の朝食は、炊きたてのお米とお味噌汁、そして香ばしく焼き上がった目玉焼きだ。
「このインスタントフードというのも、ビンチンさまか……」
ナイトが感心したように独り言をつぶやく。
お味噌をカップに入れて、お湯を注ぐだけで出来上がるインスタントフードに感銘を受けていた。
そして、また事件は起きる――。
「やっぱり目玉焼きには『ソース』一択だよね!」
レインが目玉焼きにウスターソースをドバドバと回しかけながら、熱く語り出した。
「この芳醇なコクと旨味が、トロッとした黄身に絡むのが最高なのよっ! これだけで白飯は何杯でもいけちゃう!」
「いやいやレイン、お前は分かってない……」
ナイトは、慣れた手つきでしょう油の小瓶を傾ける。
「炊き立ての白米に合わせるなら、しょう油の香ばしさも悪くない」
「ビンチンさまのメモにも『和の心、しょう油にあり』って書いてあった気がする」
アイリスがすかさず突っ込む。
「書いてないわよ」
「うーん……朝からそんな地味な味じゃ力が出ないよね?」
「地味ではない! 王道と言ってくれ」
このままじゃ勝てないと思ったレインは、アイリスに助けを求める。
「ねえ、アイリス! アイリスもソース派だよね!?」
「いや、アイリスは冷静で知的な魔術師だ、しょう油の良さが分かるはずだ!」
二人の熱い視線を一身に浴びたアイリスは、ふぅと小さくため息をついた。
そして、いつものすました顔のまま、道具袋から白いボトルを取り出す。
「……ふたりとも、朝から騒々しいわね。私は――『マヨネーズ』派だわ」
「「えええええーーーっ!?」」
ナイトとレインの叫び声が、静かな森に響いた。
「マ、マヨネーズって……朝から目玉焼きにかけるのか!?」
「ちょっとアイリス! 普段はお行儀よくしろって言っておいて、自分が一番ジャンクじゃん!」
アイリスは、二人の言い分をどこ吹く風で受け流し、目玉焼きの上にマヨネーズを飾り付ける。
「お行儀は関係ないわ。このまろやかな酸味とコクの調和こそが至高なのよ」
第三勢力の出現により、目玉焼き論争はバチバチとヒートアップしていった。
◇
ここでナイトはハッと我に返る。
まずは最大の敵である『ソース派』のレインを倒そうと画策し、不敵な笑みを浮かべてアイリスに歩み寄った。
「……フッ、だがアイリス。お前も知っているはずだ。ビンチンさまが遺したしょう油とマヨネーズの組み合わせが、どれほどの奇跡を起こすかを! あの二つを混ぜ合わせると、脳がとろけるような無限のエネルギーが湧いてくるよな!?」
「あ、ずるいよナイト! 連合を組むつもり!?」
レインが立ち上がり、待ったをかける。
「アイリス、騙されちゃダメ! ソースだってマヨネーズと最高に合うんだから! 濃厚なソースとマヨネーズが合わさったとき、それはすべての肉と卵を支配する絶対王者の味になるの! マヨネーズの最高の相棒は絶対にソース!」
「いや、しょう油マヨだ!」
「ソースマヨだし!」
アイリスは、右からしょう油を、左からソースを突きつけられる。
いつしか目玉焼きに合わせる調味料の話から、マヨネーズの最強の相棒の座決定戦に変わっていた。
しかし、アイリスは冷ややかな目で二人を見つめた後、ふぅと深くため息をつく。
「二人とも、本当に視野が狭いわ」
アイリスは再び道具袋に手を入れ、ゴソゴソと別のボトルを取り出した。
鮮やかな赤色トマトの調味料――ケチャップ!
「マヨネーズとの最強タッグは、これよっ!」
ナイトとレインが息を呑む。
アイリスは小皿の上で、白いマヨネーズと赤いケチャップをお箸で器用に混ぜ合わせる。
「これこそが、ビンチンメモに遺された禁断のブレンド調味料――『オーロラソース』よ!」
アイリスは完璧なドヤ顔で言い放つ。
レインは呆然と口を開けて叫んだ。
「ええーーーっ!?」
こうして、キャンプの朝を揺るがした目玉焼き論争――。
アイリスが放つオーロラソースの前に、二人の完敗で幕を閉じるのだった。




