【改稿】第13回「レオナルビンチン」
湖畔のキャンプで三人は夜ゴハンを食べている。
お湯を沸かして三分でできる『カップ麺』と呼ばれる食べ物だ。
ナイトは『しょう油味』。
アイリスは『シーフード味』。
そしてレインは『カレー味』。
ズズーッ! ハフハフ……!
熱々のスープと麺を勢いよくすすり、レインはあっという間に麺を完食する。
「っふはー! ごちそうさまぁ……そして、ここからが本番なのだよ!」
レインは満足げに息を吐くと、ちょうど良いタイミングで湯気を立てていたメスティンへ手を伸ばした。
パカッと蓋を開けると、ふっくらと炊き上がったツヤツヤの白米が顔を覗かせる。
「ふふん! これこそが、悪魔的合体っ!」
レインは迷わず、その炊きたての白米を残ったカレースープの中へ――ドボン! と投入する。
スプーンで豪快にかき混ぜ、カレースープをたっぷりと吸わせたご飯を口へと運ぶ。
パクッ! モグモグ……。
「はぁぁああ! めっちゃウマ―!」
その豪快すぎる食べ方に、アイリスが物申す。
「レイン……あんまりお行儀のいい食べ方じゃないわよ? 他でやらないでね?」
「わ、わかってますよーだ」
むっとしながらもご飯を頬張るレインだったが、その鋭い視線は見逃さない。
アイリスが手にしたパンを、シーフードのスープにひたひたと浸して口に運ぶ瞬間を――。
「じゃあ、アイリスの『スープ浸しパン』はどうなのさっ! 同じレベルじゃん?」
指摘されたアイリスは、パンを口に含んだまま、すました顔で返す。
「あら、スープにパンを浸して食べるのは普通だわ。エレガントな食べ方よ」
「えーっ! ずるい! 絶対そっちもお行儀良くないよ!」
静観しているナイトは心の中で突っ込んだ。
(まぁどっちも美味いならいいだろ?)
◇
「……だが、つくづく恐ろしい食料だよな、これは」
ふと、ナイトがぽつりとつぶやく。
「え? カレー味のお米ドボンが?」
口の周りにカレーのスープをつけながら、レインが首を傾げた。
「いや、この『カップ麺』だ。湯を注いでたった三分で温かい食事が食える」
ナイトの言葉に、パンをスープに浸していたアイリスも深く頷く。
「ええ……本当ね。カップ麺が発明された当時の、冒険者や兵士たちの食料事情は激変したはずよ」
レインは疑問に思い、問いかける。
「これって誰が考えたの?」
アイリスは呆れた顔でレインを見つめた。
「学校の歴史の授業で出てきたでしょ? 大天才レオナルビンチンさま」
レインは思い出したように笑う。
「あぁー、ビンチンねー! あの人の発明だったのかぁ」
まるで会ったことがあるかのように、歴史上の偉人に突っ込む。
そして、アイリスの学生時代に覚えた知識が披露される――。
「ビンチンさまはカップ麺だけじゃないわ。水魔法を使って料理から水分を抜くドライ食料、風魔法で瓶を真空状態にして保存期間を伸ばす瓶詰め技術。レトルト食料や氷魔法を使った冷凍フードもあるわ」
これらはすべて、ビンチンが発明した魔法術式だと言われている。
ナイトが感謝の気持ちを言葉にする。
「食料革命って言われたやつだな。ビンチンさまさまだ」
レインは学生時代の苦行を思い出す。
「あぁ、ビンチンの功績を暗記するの大変だったなぁ」
アイリスは全部覚えたわよというような地頭の良さを見せつける。
「そうよ、ビンチンさまが書き記したメモ……『ビンチンメモ』は一万三千ページを超えるの」
「ふぁー! 一万三千!? 暗記はムリだぁ……」
ビンチンの所業に驚きを隠せないレインだ。
その後、レインとアイリスの間でビンチンについての話題が盛り上がっていく。
「あ、思い出した! ウズマキの乗り物考えた人だよね? 回転して空飛ぶってやつ!」
「そうね、ビンチンさまの凄いところは、風魔法を使わずに空を飛ぼうとしたことね」
「発想がぶっ飛んでるよなぁ。で、ウズマキは飛んだの?」
「空中に数秒間浮いたって記録は残ってるらしいわよ」
レインは感心して頷いた。
「へぇー凄いなぁ。魔力がないのに火魔法使うのと同じだよね……」
「だから大天才と呼ばれているのよ」
アイリスはそう言いながら、手元にあった紙をさらりと折り込み、一機の紙ヒコーキを作り上げる。
「ビンチンさまの有名な言葉があるわ」
焚き火の火に照らされた紙ヒコーキを掲げる。
アイリスはヒュッと静かな夜空へ向かってそれを飛ばした。
「『この紙ヒコーキがなぜ飛ぶか? 分かるなら世界はもっと変わる』」
紙ヒコーキは優雅に滑空し、そして森の闇へと消えていく。
パチパチと爆ぜる焚き火の音とともに、ビンチン談義は続くのだった。




