第133回「誰も笑顔にならない」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
一人の村人が、深く息をついた――。
「あぁ……」
そのため息は、周囲へと広がっていく。
「はぁ……魔王は倒してくれたけど」
村人は、傷ついた田んぼへ目を向ける。
「これじゃ、稲もダメだぁ……」
別の村人も、青田を見つめた。
「今年の収穫は、厳しいかもしれないな……」
誰も、レインを責めなかった。
怒鳴る者もいない。
恨み言を口にする者もいない。
ただ――。
傷ついた田んぼを見つめ、静かに落胆している。
その表情が。
その沈黙が。
レインの胸に、深く突き刺さっていた。
「……」
コシヒコが、レインを見る。
そして――。
「俺が許可した事だ!」
力強く言った。
「責任は俺にある」
その優しい言葉さえ――。
今のレインには苦しかった。
「……ごめんなさい」
レインは、もう一度、小さく頭を下げる。
アイリスは、そんなレインを見つめていた。
「レイン……」
励まそうとする、けれど――。
言葉が出てこない。
何を言えばいいのか、分からなかった。
ナイトも、静かに立ち尽くしている。
「……」
いつもなら、何かしら声をかける。
しかし今は、何も言えなかった。
レインは俯いたまま歩き出す。
その背中は、いつもの明るいレインとはまるで別人のようだった――。
アイリスが慌てて声をかける。
「待って!」
しかし――。
レインは振り返らない。
村の出口へ向かって。
一歩。
また一歩。
静かに歩いていく。
村人たちは、その後ろ姿を見送っていた。
誰も引き止められなかった。
風が吹く。
傷ついた青田が、寂しそうに揺れる。
「サワサワ……」
レインは唇をかみしめる。
そして――。
小さくつぶやいた。
「……魔王を倒したのに」
足を止める。
「誰も笑顔になれなかった……」
その言葉とともに、レインはしょんぼりと肩を落とした。
いつもなら――。
魔王を倒せば、みんなが笑顔になる。
「やったー!」
「助かった!」
そんな声が聞こえるはずだった。
でも――。
今回は違った。
魔王は倒した。
人々も守った。
それでも――。
守りたかった田んぼを、傷つけてしまった。
いたたまれなくなったレインは――。
そのまま、コメライス村を後にするのだった。
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この作品は不定期で投稿してます。
※本作の作中に挿入されている画像は、AI生成によるイメージイラストです。




