【改稿】第9回「新コーナーが始まる」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
カミナリ配信の次の日の朝――。
ホミラタウンの中央広場――。
街の広場には、大きな魔法通信の画面が設置されている。
そこでは、レインたちの配信を待つ人々で賑わっていた。
やがて、レインたちの定時配信の時刻となる。
画面がパッと切り替わり、レインとアイリスの姿が映し出された。
画面の中のレインは、こちらに向かって笑顔を浮かべると、元気よく手を振る。
「皆さん! おはようございます! 今日の天気予報のお時間です!」
隣に立つアイリスも、穏やかな笑顔で頭を下げた。
「おはようございます」
配信開始と同時に、コメントが流れていく。
『おはようございます!』
『昨日は心配したよ!』
『俺の癒しの時間……誰にも譲れない……』
『二人がいるから生きていける、割とマジで……』
それを見たレインは、ほっとしたように表情を緩めた。
「ありがとうございます!」
そして、昨日の出来事を振り返る。
「昨日の雷は本当にすごかったよねっ!」
アイリスも、どこか白々しく言葉を添える。
「まさか避雷針が絶対じゃないとは思わなかったわ……」
レインはガラリと――、いかにもお仕事モードといった顔になる。
「皆さんも、雷が鳴ったら安全な場所へ避難してくださいね!」
アイリスもキリリと――、真面目なキャスターの顔になる。
「雷から離れることが一番大切です!」
その瞬間――、コメント欄が大きく流れ始めた。
『まぁカミナリに近づく時点でアウトだし……』
『経験者の発言は重みがあるな!』
『それを二人が言うのか……』
『よく言うよホント……』
昨日の雷騒ぎがあったとはいえ、番組の雰囲気はいつも通りだった。
オープニングが終わると、いつもの天気予報が始まる。
今日の天気、気温、雨の可能性、風の強さ――。
山へ向かう人への注意情報も忘れない――。
ここまでは、いつも変わらない天気予報だった。
◇
天気予報を終えると、レインは隣のアイリスにチラリと視線を向ける。
アイリスも静かに、小さく頷いた。
準備はできているといった表情だ。
ほんの少しだけ緊張した面持ちで、視聴者たちに笑顔を向ける。
「それでは……皆さん!」
レインがぐっと近づいてくる――。
画面の半分以上がレインの顔で占められる。
「あたしたちの配信で、新コーナーを始めます!」
突然の発表に、コメント欄が一気にざわつき始める。
『急なドアップ助かる』
『新コーナー?』
『昨日の雷と関係ある?』
『次はサメ配信とか希望します……』
レインは流れていくコメントを目で追っていく。
(サメ……? ダメダメ、今は拾っちゃダメ……!)
好奇心を煽る言葉に揺さぶられつつも、なんとか自制する。
その隣では、アイリスがいかにも進行セリフですよという表情で続ける。
「新コーナーですか?」
レインの顔はさらに大きくなり、画面いっぱいに表示された。
「はい、それは――魔王予報です!」
その瞬間――。
コメント欄の流れが、ピタリと止まる。
誰もが、その言葉の意味を理解できない。
そして、少しずつコメントが流れ始める。
『魔王?』
『魔王予報って何?』
『そんな予報あるの?』
アイリスは、カメラに近づきすぎたレインの服を引っ張り、そっと定位置へと連れ戻した。
画面いっぱいに映っていた顔が元の画角に戻る。
少し暴れてはっちゃけすぎたレインは、照れくさそうに言葉を続ける。
「そう……魔王予報っ!」
「魔王の降臨を予報して、事前に避難を呼びかけるって感じ?」
アイリスは、定位置に戻ったレインをチラリと見て、満足そうに頷く。
「なるほど、世の中のお役に立ちそうな情報ですわ」
画面の外から、ナイトの冷静な声が飛んでくる。
「説明がかなりざっくりだな」
「細かいことは、これから考えますっ!」
レインは、見切り発車はあたしの十八番――といった表情で堂々としている。
「まだ、なんにも決まってなくて、手探り発進だけど……」
「この企画、ボツにならないよう頑張りまーす!」
コメント欄が再び流れ始めた。
『魔王って本当にいるの?』
『面白そうだな!』
『要するにノープランだろ!!』
『天気予報のノリで魔王を語る、斬新な設定!!』
流れるコメントを見つめながら、レインは少しトーンを落とし、画面の向こうへと語りかける。
「えっと、皆さん……あたし、昨日、雷に撃たれたじゃないですか?」
「雷に撃たれたあと……なんか、黒い影が見えるようになったの……」
隣から、アイリスが静かに言葉を補う。
「どうやら、レインがもともと持っていた天気を読む才能が、雷をきっかけに大きく開花したみたいなんです」
レインは静かに頷き、言葉を続ける。
「最初は何なのか分かりませんでした。でも……不思議なんです……見たこともないはずなのに――」
そっと胸に手を当てるレイン――。
「分かるんです……」
そして、力強く言った――。
「あたしの才能が、魔王だって言ってる!」
アイリスが少し驚いたようにレインを見つめ、それから真摯な表情で頷いた。
「私たちにも、まだ分からない部分はあります。でも、レインが感じ取っているものが、本当に魔王の発生予兆なのだとしたら――、事前に知らせる意味は大きいと思います」
レインは迷いのない表情を見せ、皆に宣言する。
「うん! 魔王が現れる前に分かるなら――みんなに知らせたほうがいいよね!」
「だから、あたしの新しく開花した才能を使って――魔王が現れそうな場所をみんなに教えるよっ!」
その声には、いつもの天気予報とは違う確かな決意が込められていた。
コメント欄には、様々な反応が流れていく。
『天気じゃなくて魔王?』
『本当にそんなことできるの?』
『次回も見てみるか』
まだ、完全に信じてもらえてはいないようだ。
それでも、少しずつ視聴者の関心が集まっていく。
最後に、いつもの言葉を口にした。
「以上、天気予報士レインがお伝えしましたっ!」
こうして、世の中に初めて魔王予報という言葉が届けられたのだ。
◇
配信終了――。
レインの家の配信スタジオ――。
ナイトが機材を片付けながら口を開く。
「新コーナーか」
「まだ誰も信じてないみたいね」
どんな言葉を並べても、どこか信じられない――そんな視聴者の気持ちはアイリスにも分かっている。
すると、レインはいつもの調子で笑った。
「大丈夫! きっとみんな信じてくれるっ!」
その言葉に、アイリスとナイトも穏やかな笑みを返す。
しかし――その時だった。
仕事終わりの和やかな空気を壊すように、レインの背筋に冷たいものが走る。
ゾクッとするような悪寒――。
レインは慌てて目を閉じ、意識を外へと集中させた。
遠くの空に見える黒い影が、確かな存在感を持って現れる。
レインの顔から、一瞬にして笑みが消え失せた。
「……」
「レイン?」
わずかな異変を察知し、アイリスが声をかける。
レインは窓の外、静まり返った空を見上げる。
澄み切った青空の向こうに――確かに感じる黒い影。
レインは静かにつぶやいた――。
「初めての魔王が……来たかもしれない」
読んでくれてありがとうございます!
この作品は不定期で投稿してます。




