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彼女の隣で、僕は眠る  作者: 粗川燕(あらかわつばめ)
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検証、頑固者、生命の書。

 「何とか切り抜けたね。」そう言って隠れていた彼女は姿を現した。

 「凄い格好良かったよ。」彼女に褒められ、恐怖に駆られていた心に、気恥ずかしさと共に、会話をする余裕が生まれた。

 「何とかなって良かったよ……。それにしてもスキルって凄いな……。剣にもちゃんと実体がある。」自分の腰に差してある剣を鞘から抜き観察する。見た目は普通の長剣で、とてもじゃないが偽装とは思えなかった。

 「ちょっと何か切ってみましょうよ!」彼女は実に楽しそうに提案してきた。確かに、実体は有って手に持てるのだから実際に切れるとは思うが、触れるだけで物体をすり抜けるとも限らないし、検証は必要だ。そう結論付けて剥き身の剣を正面に構え、崩れたドアに新たな役目を与えてやる。


 「いくよ。……フッ!」息を短く吐き出し、壁に立て掛けたドアの残骸に剣を勢い良く振り下ろす。ゴッと鈍い音が響き、唐竹割りにするつもりだったドアの中ほどで剣は止まり抜けなくなった。

 「切れるには切れるけど微妙ね……。」彼女は少しイメージと違ったのか先程とは打って変わって気勢を削がれた様だった。そんな彼女の反応を見て言う。

 「普通に切れるだけ良いと思う……。剣なんて初めて振ったし。」そう言いながら、ドアに食い込んだ 剣を引き抜こうと上下に剣を動かす。何回か繰り返したが頑固者の剣はドアから離れようとせず、鍛えてもいない人間に長時間剣を握る握力など有る筈もなく剣を手放した。

 「抜けなくなっちゃったよ……。」そう呟き、途方に暮れていると手放した剣が、まるで煙のように霧散していった。


 「消えた!」気勢を削がれていた彼女はその現象に興味を持ったのか少し持ち直した様だった。

 「身体から離れると消えるみたいだね。」偽装だし、それはそうかと思いつつ、腰の鞘に目をやると先程消えた剣が腰に収まっていた。


 「消えたら元の偽装状態に戻る……と。マジシャンにでも成れそうだ。」そんな軽口を叩いていると、左手の甲が僅かに震えた気がした。目をやると手の甲の黒い石が淡く点滅していた。

 「何だろうこれ?……開け。」何か異常でもあったかと思い、UIが表示させると異世界百科事典のアイコンに、通知を知らせるマークが付いていた。

 「通知?」確認の為、再度アプリを起動するのだった。


 「事典に記述が増えてる……。」百科事典のインターネットブラウザの様な項目欄のタブに感嘆符が付いていた。

 「……えっとスキルと、言語のタブに通知がある。」そのままスキルのタブを触り画面を切り替える。切り替えたタブの中にはユニークスキル“カモフラージュ”と在った。

 「さっきまでは無かったのに……。」不思議に思うも、カモフラージュの文字を触ってみることにした。スキル名に触れると、“カモフラージュ”の情報が表示された。


 “カモフラージュ” ①変装、②偽装、③擬装、の三項目に加え、習熟度100と表示が有り、それぞれの詳細説明が見れる様になっている。

 「それぞれの詳しい仕様が確認出来る様になってる……。」もう一つの通知はどうなんだと、スキルタブから言語タブへ切り替えて確認する。

 「これって翻訳?」そこに在ったのは、先程乗り込んできた男達のひょろひょろが口にしていた初めて聞く言語の恐らく正しい表記と、翻訳だった。


  「ここから女の声が聞こえたって言ってたのか……。」男達の様子を思い出し、翻訳は正しいのだろうと結論付けた。

 「この事典は貴方の使ったスキル、聞いた言語の項目を追加したってことは、貴方が体験する全ての事象について自動で情報を集めるってことね。」彼女はまるで初めて見る生物を見る様に事典に視線を落とした。

 「まだ何か書いてあるわね。……“生命の書”?この事典の名前?」彼女は真剣に生命の書を眺めた後満足したのか、視線を離す。

 「とりあえずここで出来ることはもう無いわね。ドアも無いし、天井にも穴が空いてるんじゃ流石に泊まろうなんて思えないわ。街なのだから宿くらいあるでしょ。」確かに、ここに泊まるのは真っ平ごめんだった。

 宿を探しに小屋を出る。日が傾き、異世界での初めての夜が訪れようとしていた。

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