白紙、虚勢、初めての力。
見覚えの無いアプリケーションは、この世界における百科事典の様だった。
「項目は有るけど情報が出ない……殆ど白紙だ。」これでは百科事典とは言えないのでは?と心の内でツッコミを入れる。
「それ今の所、役に立たないわね。」彼女が実に身も蓋もない事を言う。
「とりあえずこれはもういいね……。」彼女の言葉にすっかり気勢を削がれたので、デバイスの確認を止める。
「気を取り直して次に行こうか。」そう彼女に伝えると楽しそうな顔から一転、真剣な顔つきをして言う。
「……誰か近づいてきてるわね。」その言葉にバッと振り返り、小屋の入り口を凝視した。
「……このまま入って来られたらまずいわ。変装のスキル貰ったのよね?」彼女はカモフラージュを使うことを提案する。逡巡していると扉の閂がガンッと悲鳴を上げた。
「迷ってる時間は無いみたい。貴方、今の姿のままじゃ危ないかもしれないわ。ただの子どもにしか見えないのよ?閂が掛かっている扉を、強引に開けようとしてる奴がまともな訳がない。使うしかないわ。」自分の見た目に言及され納得する。14歳に若返っている事を失念していた。こんな平均より背の低い小柄な子どもなんか、身ぐるみ剝がされて売られて終わりだ。
恐怖に駆られつつも、震える声で何とか言葉を紡ぐ。
「カモフラージュ。」
強くイメージし自分を偽装していく。それなりに背が高く、精悍で屈強な肉体に、まさしく異世界の様な軽鎧を着込み剣を帯刀した青年の姿に変貌を遂げた。
「隠れて!」彼女を背後に隠したとほぼ同時に閂が壊れ、ボロボロだった扉が最後の来客を迎えその役目を終えた。
小屋の中に3人の良く言えば小汚い男達が入ってきた。
「⟐⋔⌬⟡⌇⫶⟢⋉⟊!」男たちの中の下っ端だろうか、小柄でひょろひょろな男が、未知の言語で何やら騒いでいる。その男達の瞳は死んだ魚の様に暗く、獣染みた欲望の光を宿していた。間違いなく良からぬ事を企んでいたと思われる。
「何の用だ……。」自分は内心の恐怖を隠しつつ、出来るだけ威圧感を込めて睨みを聞かせながら問う。男達は自分の姿を確認した途端にたじろぎ、後ずさりする。明らかに脅えているようだった。
言葉は通じず説得は不可能と判断し、せめてものブラフとして腰の剣に手を掛ける。その仕草を見て男達は一目散に小屋から出て行った。
「……怖かった……。」異世界での第一村人との遭遇は、お互いに恐怖を分け合って幕を閉じたのであった。




