瓶、変装、さよなら。
僕は泣きじゃくる妻を抱き締めながら、視界の隅で妻の背後に佇む、長い黒髪の女性を見た。女性は腰のポーチから何かの瓶を取り出し、僕の背後の木へ放り投げた。高く放物線を描きながら飛んだ瓶を女性は細い鎖で打ち払い、瓶の中身を木に浴びせ掛けたのが見えた。
たちまち木に蕾が生まれ、花が芽吹いた。再び女性へ目を向けると僕に向かって頷いた。優しい人だと思った。
僕等が愛した桜の花と、僕の胸元で咲いた最愛の妻の満開な笑顔を、僕は魂に刻んで行こう。
そうして、身体の所有権を彼に返すべく逆らう事無く呼び声に従う。彼の魂が覚醒を始め、僕との境界線が曖昧になっていく。
「……ありがとう。君のお陰で妻の最高の笑顔が見れたよ。」混ざり合った意識の中、一時的に一体となった彼に感謝を告げる。
「願わくばこれからも、妻と笑い合っていて欲しい。セラは笑顔の時が一番素敵なんだ。」カイルの言葉に、意思だけで勿論と伝える。そうしてカイルはその答えに満足し、遠い場所へ旅立って行った。
「……変装、解除……。」此方に素敵な笑顔を見せていたセラは、僕と目が合うと驚いた様に目を見開き、そしてカイルが旅立った事を知り、涙を零した。そんなセラを慰める様に優しく抱きしめ、セラの嗚咽が治まるまでそうしていた。
「マコト君、エリちゃん。改めてありがとうね。二人のお陰で生き残れたし、カイルともちゃんとお別れできたわ。本当にありがとう。」セラは深く頭を下げ、何度も感謝を伝えて来た。
「良いのよ!私達は好きでやったんだから!そうでしょ?マコト!」彼女の言葉に同意を示し、セラに声を掛ける。
「セラさん、僕達からもお礼を言わせて下さい。セラさんとカイルさんが居なかったら僕達は此処で終わってしまっていました。助けて頂きありがとうございました。」心からセラとカイルに感謝を伝える。
「……それならお互い様ね。」そう言ってセラは笑った。
「マコト君、エリちゃん、また一つお願いが有るのだけれど聞いてくれる?」エリが当然でしょ!と胸を張って答えていた。否は無いので彼女と共に続きを促す。
「カイルの埋葬を手伝って欲しいの。あの桜の木の下に還してあげようと思うのよ。」セラの申し出に二つ返事で了承し、三人でカイルを送る事にした。
「……これで良しと。」庭の桜の木の下に穴を掘り、僕が作った棺にカイルを納めた。
「後はこれね!」途中手が空いたエリが少し外すと言って何処かへ行っていたが先程帰って来て告げた。その両手にはセラから借りた大き目のバッグが在った。
その中身をカイルが眠る棺の中へ入れていく。バッグから舞い落ちる黄色い花弁。セラとカイル、二人の思い出を棺に一杯詰め込んで、カイルと別れを告げた。




