誇り、嫉妬、花。
「……何固まってるのよ……。」目の前で何も言わず、口を半開きにして動かないカイルに私は呟いた。カイルは私の言葉に反応し、慌てて口を開く。
「……ごめん!今まで見た事ない位、君が綺麗だったから見蕩れてしまって……。」カイルの言葉に顔から火が出たかと思うほど、恥ずかしさで熱くなった。きっと顔はもう真っ赤になっている事だろう。
「……莫迦ね。今まで一度もそんなの言った事無いじゃない。」今更何よ……と思いつつ、時間が無い事を思い出し言葉を紡ぐ。
「……カイル。短い間だったけど貴方と一緒に居られて本当に幸せだったわ。勢い任せで無茶な冒険ばかりだったけど、貴方とだから歩んで来られた。」ありのまま心からの感謝を伝える。思い出が脳裏に蘇り、涙を誘うが、泣き顔は見せまいと堪える。
「人生の半分以上一緒に過ごしたんだから、僕にとっては短い時間じゃないけどね。エルフの時間間隔には驚くね。」カイルは苦笑しながら私の言葉に異を唱えた。
「……でも、まだまだ一緒に居たかったからやっぱり短かったかな……。今までも、これからもどんな所へも二人で行けると思ってた。……どんな事でも出来ると思ってた。」カイルはそう呟くと、私が大好きな綺麗な瞳から一筋の雫を零した。
「カイルッ……!」カイルの言葉に堪らず、力一杯抱きしめる。此処に繋ぎ止める様に、何処にも行かせない様に。
「僕が不甲斐ないばかりに、苦労を掛けてしまったね。」カイルは申し訳無さそうに告げながら縋り付く私の頭を撫でた。
「そんな事無いっ!私は苦労だなんて思わない……!」もう形振り構ってられなかった。子ども染みていたと言っても良い。それでも離れたくなんて無かった。
「……ありがとう。こんなに綺麗な君を最後に護れた事が僕の誇りだ。」そう言ってカイルは私を抱きしめ、空を見上げた。
「……もう……行っちゃうの……?」大粒の涙を止める事が出来ず、私はカイルの胸を濡らし続けていた。
「……うん。そろそろみたいだ。何処かで呼ばれてる気がするんだ。」カイルはもう時間が無いと告げた。カイルの背後から何かが割れる音が聞こえたが、とにかくカイルに言葉を掛ける。
「待って……。お願いだから行かないで……。」嗚咽が邪魔をして言葉が上手く紡げない。代わりに強く強く抱きしめる。
「何かして欲しい事は有るかい?」カイルは困った様な表情で、泣きじゃくる私に優しく声を掛けてくれる。
「……それならキスして欲しい……。」思った事を口にする事しか出来なかった。カイルは私の願いに笑って答えた。
「悪いけどそれは出来ないな……。」じゃあなんで聞いたのよ!と八つ当たりの様にカイルの胸を叩く。
「……だってこの身体は彼の物だろう?他の男にそんな事させる訳にいかないさ。君は僕の妻だからね。」そんな夫の嫉妬に思わず、吹き出して笑ってしまった。そう云う事なら我慢するしか無いわね。
「その代わりに僕のお願いを聞いてくれるかい?」そう言ってカイルは私の顔を見つめる。
「……君の笑顔をもう一度見せて欲しい。」その言葉に、一度顔を伏せ溢れる涙を拭い、ずっと一緒に旅をした人に飛び切りの笑顔をぶつけた。見上げると、カイルの背後の木に満開の花が咲いていた。私の額に黄色い花弁が舞い降りて、カイルはその花弁を指で摘まみながら口を開く。
「桜……また咲いたんだな……。」
一陣の風が、戦いの爪痕が残る大地を吹き抜ける。その風は、雫と舞い落ちる花弁を掬って、何処か遠い場所へと運んで行った。




