惜別、妙案、別れの準備。
雷鳴は遠く去り、風も吹き止んだ。それでも空は曇天の様相を呈していた。
「……私をカイルの所へ連れて行ってくれる……?」気丈に振舞っているが、震える声でセラが呟く。その言葉に何も言わず、彼女と二人で肩を貸し、ゆっくりとカイルの眠る二人が過ごした家へ向かう。
限界を超え言う事を聞かない足を、懸命に動かしながらセラは愛する夫の元へ歩む。短いようで長い道程を三人は無言で歩き続けた。
「……カイル……。」二人の家、カイルが過ごしていた部屋、そこに眠っているカイルの姿を見て、セラの瞳から一筋の雫が零れた。風は雫を吹き飛ばす事は無く、床に染みを作るだけだった。
セラはその場に崩れ落ち、もう目覚めない夫に縋り付き、堪えていた感情を爆発させた。愛する者を亡くした哀しみ、護り切れなかった悔しさ、ありとあらゆる感情が発露しては零れて行った。
彼女は泣き叫ぶセラを後ろから優しく抱きとめていた。このままではセラが壊れてしまいそうで、居ても立っても居られなかったのだろう。
そしてその様子に声を掛ける事も出来ず、呆然と立ち尽くしていると手の甲の宝石が淡く光っている事に気が付いた。
「……そうか、その手が有ったか。」その呟きに彼女が此方を見つめ、全て解っていると言わんばかりに頷いた。
「……セラさん。聞いてください。カイルさんにちゃんとお別れしませんか……?」その言葉に泣きじゃくっていたセラは此方をゆっくりと振り向き、真っ赤になった目で見つめてきた。
「……短い時間、本当に短い時間ですが、もう一度だけカイルさんに逢わせる事が出来ます。……その時間でカイルさんを見送ってあげませんか……?」死霊術師としてセラとカイルに出来る、精一杯の誠意だった。
「……本当に……また逢えるの……?」嗚咽を上げながらセラが呟く。セラの呟きに首を縦に振り、セラの返事を待つ。
「……逢いたいわ。カイルに言わなきゃいけない事が沢山あるの……。」セラの声に力が戻ったのが分かった。
「……そうと決まれば準備しなくちゃね!マコト!タオル濡らして持ってきなさい!」彼女は声を上げ、困惑するセラを椅子へ座らせるとタオルを勝手に引っ張り出し此方へ投げて寄越した。
「……そんな泣き腫らした顔じゃ格好付かないわ!愛した人には飛び切り美人にして逢うべきよ!」濡らしたタオルを彼女に渡すとセラの目に当て腫れた瞼を冷やし始めた。
彼女に任せておけば大丈夫かと思いながら、カイルの部屋の窓から外を見る。
厚い雲の隙間から光が差し、窓から見える木を照らしていた。




