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彼女の隣で、僕は眠る  作者: 粗川燕(あらかわつばめ)
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雷撃、決着、笑顔。


 雨は止み、風は唸りを上げ、雷鳴はその勢いを弱めていた。


 カイルから放たれた爆風は螺旋を描きながら、瓦礫を巻き込み勢いを殺す事無く、真っすぐユピーへと突き進む。ユピーは大翼を羽搏かせ、風に対し右へ回避をする様に見えた。

 「……そうはさせませんよ。」ユピーが動くのなら仕方がないと、最大では無いがユピーの進行方向に合わせ、溜めていたスキルを起動させる。ユピーには何が起こったのか解らなかっただろう。魂由来であるため、通常の感覚では感知できない爆発だった。

 「……この溜めで多少よろめかせた程度か……。」霊爆の検証をしつつ、もう出来る事は無いとばかりにその後の展開を見守る事にした。


 霊爆により回避を妨害され、ユピーは上へと進路を変えた。もう既に爆風の中に居たが、無理やり脱出を試みていた。

 次の瞬間、彼女のアンカーチェーンが絡みつき、動きが止まったユピーの角から雷撃が瞬く。雷撃が逸れ、その隙にセラが角を断ち切っていた。


 そして、セラから逸れた雷撃は吸い込まれる様にカイルの胸へと突き刺さった。


 力を出し切り落下するセラの救助に彼女が走り出したのを見て、カイルの元へと走る。

 「……カイルさん!」倒れたカイルを抱き起こし呼び掛ける。意識は無く、既に脈拍も呼吸も止まってしまっていた。急いでその場に寝かせ、心肺蘇生を試みようとカイルの衣服を切り裂いた時だった。

 「……そんな……。」目の前には横たわるカイル。そして、その身体のすぐ近く、彼女に救助されたセラを優しい眼差しで見つめる二人目のカイルの姿が在った。


 「こうして話すのは初めてだね。セラの夫で冒険者、風爆のカイルだ。よろしく。」そう名乗ったカイルは足元の横たわる自らの肉体には目もくれず、セラの無事を伝える彼女の姿を確認すると此方に向き合った。

 「……不思議だ……。さっきまで頭に靄が掛かった様に何も考えられなかったのに今は解き放たれた気分だよ。」肉体の軛から解放されたカイルは、出会った時とはまるで別人の様に流暢に言葉を紡ぐ。

 「ずっと囚われていた僕を、セラは今まで護ってくれた。……僕は最後にセラを護ってあげられただろうか……。」セラには決して届かない声でカイルは独り言ちる。

 「……貴方は立派にセラさんを護り抜きましたよ……。風爆。」カイルの言葉に賞賛を込めて返す。冒険者としてでも、夫としてでも無く、只一人の男としてカイルを尊敬し、畏敬を以って二つ名を呼んだ。


 「それならよかった……。」カイルは視線を再度離れたセラの方へ向け呟いた。

 「……一つ君に頼みができた……。」そう言ってカイルは名残惜しそうに、倒れているセラから視線を此方へ戻すと死霊術師に願いを伝えた。

 「……セラの笑顔を取り戻して欲しい。きっとセラは僕の事を悲しんでしまうだろう。そしてこれから何十年も悲しみ続けてしまうかも知れない。」長寿であるエルフの宿命を打ち破って欲しいとカイルは希った。

 その言葉に、強い頷きを以って返す。その様子を見てカイルは後は任せたと笑った。

 「……死霊術、契約……。」カイルに手を翳し、その遺志を果たすと心に誓う。

 「ありがとう……。」左手の甲の宝石から淡い光が伸びる。光に包まれながらカイルは最後にセラと暮らした家、其処に生えた木を見つめ礼を呟き、光の中へ消えて行った。

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