希望、後悔、愛する人。
勝手に身体が動いた。あの人を護らないと、その一心だった。長い間、一人で頑張ってきたあの人が少しでも報われる様にと空に投げ出された彼女を助けるために自然と身体が動いた。
あの花をもう一度見せてあげる為に。
「エリちゃん!!!」ユピーの殴打が直撃し、雨に濡れた土を巻き上げながら地上に叩きつけられる様子をセラは落下しながら見ていた。
自らの失態、護り導く筈だった新米達に、お膳立てまでして貰って最後の最後でしくじった。Aクラス冒険者として何たる不出来かと自責しながら落ちて行く。空中で体勢を立て直し脚に魔力を纏い着地する。多少の衝撃は有るが問題ない範囲だった。……問題なのは自らを庇い、ユピーの攻撃を受け、起き上がらないエリの方だと歯を食い縛る。
頭上にはソーマリヲンでの傷や、マコトの付けた傷が有るもまだ闘志の衰えない龍。唯一の希望であった角は罅が入りはしたが、折る事は叶わなかった。
「……此処までね。」新米冒険者を犠牲に生き延びたセラは悲壮な面持ちで覚悟を決める。
「マコト君、エリちゃんを連れて全力退避!私が時間を稼ぎます!これは命令です!」叫び、自らの失態を償うかのように、犠牲となる選択をする。此処からは出来るだけ長くユピーを引き付ける事、マコト達が無事に逃げ切れる事を最後の希望に、雷轟龍と称される龍に抗う。
「……出来るだけ持たせてみせるから必ず逃げ切ってね。短い間だったけど、ありがとう。」脳裏に過ぎるのはソーマリヲンからここまでの短い旅。初めての料理を食べ、マッドネスベアを三人で倒し、最上位に位置するドラゴンにここまで戦った。実に充実した冒険だった。
あんなに懐いてくれたエリ、そして愛する夫を護り切れなかった後悔が胸を締め付ける。
眼前に迫るユピーに剣を向ける。目だけは逸らさず、マコト君は逃げてくれただろうかと思い馳せながらユピーの攻撃を躱して行く。
徐々にユピーの攻撃が避けられなくなり、身体の至る所から出血していく。脚は既に限界で、それでも時間を稼ぐ為気力のみで動かしていた。
「……あぁカイル……愛しているわ。貴方にもう一度会いたかった……。」限界を超え、歩みを止めたセラは力なく呟く。そしてその耳に愛した夫の声が聞こえた様な気がした。
「セラさん!構えてっ!」ユピーがセラを屠らんと角に力を溜め始めた時に此処に居てはいけない者の声を聴いた。驚愕と共に限界を迎えていたはずの身体は、その声に反応して剣を構える。
剣を構えたセラの背後に、風が吸い込まれるのを感じた。そして一拍の無音が生まれ、背後から爆発の様な風が轟音と共に吹き荒ぶ。
「……嘘……。」セラを巻き込み吹く爆風に一滴の雫が飲み込まれていった。
そして風はあの頃のままセラを運ぶ。雨はもう降っていなかった。




