矜持、不穏、雷音。
「マコト、起きて。」彼女に揺さぶられ、目を覚ます。窓を叩く雨音が聞こえ、まだ降っているのかと思いながら、何やら神妙な顔をしている彼女に返事をする。
「おはよう、エリ。なんか深刻そうだけど何かあった?」そう聞くと彼女は静かに考えを口にした。
「……何か妙なのよ。昨日の空の感じからすると朝には雨雲が流れて、晴れる筈だったのよ。それが未だに雨が強く降っているの。」彼女がそこまで言うのは、相当に異常な事が起きてるんだろうなと彼女に続きを促す。
「地上でこれだけ風が吹いているのに、雲が流れる速度が遅いの。これは明らかに異常だわ。」窓から空を見上げ、雲を確認すると確かに全くと言っていいほど雲が流れていない。
「……どうなってるんだ?」積みあがる疑問に答えが出せず、困惑する一方だった。
「これが異世界の気象現象って言われたらそこまでだけどね。一応注意しておきましょう。」彼女の言葉に頷き、身支度を整え居間に向かう。
「二人ともおはよう。朝食は作らせて貰ったから良ければ食べてね?」口に合えば良いのだけど、と心配そうにセラが呟く。
「美味しそうね!頂くわ!」彼女と共にセラに感謝を伝え、手料理に舌鼓を打った。
「セラさん今後の事なんですが、カイルさんの事も有ります、王都ではなくこの村で別れるのはどうでしょう?」朝食後、エリと夜の内に相談していた事を切り出す。王都へ二人で向かい、材料を集めて進行を抑える薬等、様々な薬を精製して帰ってくると二人で話し合って決めていた。この村から王都までは半日程で辿り着くそうだし、往復も出来ない程急いでる訳でも無かった。
「……何を言い出すかと思ったら、貴方達は……。」セラは少し拗ねた様な顔をして、ため息をついた。
「冒険者が一度受けた仕事を投げ出すなんて以ての外よ。王都までは一緒に行くから、そのつもりでいなさい。カイルの事は気にしなくていいの。」ベテラン冒険者の矜持を刺激してしまったか、言い返そうにもムキになって反論して来る事が予想できたのでただ頷いた。
「それなら天気が良くなるまで、セラさんの用事が有れば済ませちゃいましょ!」確かにセラが王都まで同行するとなるとカイルの世話などもまた手配しなければならないだろうし、やる事は多いはずだと、彼女に倣ってセラの手伝いをする事に決めた。
セラが留守にしている間に出来ていなかった掃除などの手伝いをしていると、まだ雨の降りしきる中、玄関の扉を叩く音が響いた。
「セラちゃん!いるかい!?ちょっと来て欲しい!」セラが扉を開けると、そこに居たのはダンだった。雨の中走ってきたのか、ずぶ濡れでセラを呼びに来ていた。
「ダンさん、どうしたんですか!?こんな天気の日に、今、拭く物持ってきますから!」そう言って奥へ行こうとしたセラをダンが引き留めた。
「良いんだセラちゃん。それより今、兵士の方が見えてるんだよ。セラちゃんに直接伝えたい事が有るって!」ダンの様子から、何かまずい事が起こっていると感じる。
外では雨が弱まる気配は無く、遠かった雷の音が近づいて来ていた。




