料理、優しさ、命令違反。
雨脚が強くなり、遠雷が聞こえ始めた頃、エリとの検討を終え、尚も何か無いかと一人で熟考していると台所からセラが戻ってきた。
「二人ともごめんなさいね。カイルにご飯を食べさせたら私達も食事にしましょう。」そう言って食事を手にカイルの元へ行こうとするセラに彼女が声を掛けた。
「じゃあその間に食事の支度をしておくわ!台所借りるわよ!」彼女は立ち上がると、マコト行くわよ、と思考に没頭していた僕の意識を呼び戻した。
「エリちゃん駄目よ!おもてなしはするって約束じゃない!」セラは客人にそんな事させられないと、抗議の声を上げた。
「私はそんな約束してないわ!セラさんが勝手に言ってただけよ!それに戦闘以外の命令は聞くつもり無いわ!」これは決定よ、と彼女は高らかに宣言していた。その様子を見てセラが此方を見て、何とか言ってと訴えてきた。
「……僕達が準備してきた食料も余っちゃいそうですし、エリの好きにさせてあげてください。」一人味方が居なくなったセラは、諦めたように息を吐き呟く。
「……戦闘だって言う事聞いて無いじゃない。分かったわ。エリちゃんお願いね?」セラのその言葉に、勝った!と彼女がしたり顔をしていた。
「改めて行くわよ!マコト!」彼女が僕の手を引き台所へと向かう。そんな様子をセラが笑いながら、エリちゃん優しいわね、と呟き、カイルの部屋へと入って行った。
「じゃあ作るわよ!何にする?」何を作るかは決めていなかった彼女に、残っている食材を伝える。
「材料は、カレーで余った人参、ジャガイモが少しと、香草、干し肉、錬金術で精製したバターと黒パンだね。」列挙した材料を聞いて少し悩み、彼女が口を開く。
「その材料ならシチューが良いわね!小麦粉は借りちゃいましょう!」そうと決まればと、彼女は実に手際よく鍋でルーから作り始めた。
「……本格的だなぁ。」やる気に満ちた彼女に水を差す事もせず、野菜や肉の下処理に専念し、彼女手製のシチューが完成したのはそれから約一時間後だった。
「御馳走様でした。」カイルの食事の補助が終わり、台所から漂ってくるシチューの香りにそわそわと待っていたセラはカレーの時と同じく、お替りまで平らげ満足そうに食卓の椅子に身体を預けた。
「……エリちゃんは料理の天才でも有るわね……。何が出来ないのか知りたいくらいだわ。」彼女は本日何度目かのドヤ顔を披露し、出来ないことはあんまりないわ!と自信満々に答えていた。
「食休みして、身体を拭いたら寝ましょうか。今日は疲れたでしょう?」セラは立ち上がり台所へお湯を沸かしに行き、三人分の桶と布を用意し始めた。セラに案内された部屋に彼女と順番に入り、身体を拭き道具を返しに行く。
「狭い部屋で悪いけどゆっくり休んでね?おやすみなさい。」セラはカイルの部屋に行ってから休むと言って後片付けをしていた台所から桶と布を持って出て行った。
部屋に戻り、用意された寝具に身を投げ出す。彼女のお陰で考えない様にしていた事が、床に就いた途端に湧き出す。眠りに就くまでに暫くの時間を要したのだった。




