症状、検討、最終手段。
ベッドに座るカイルの様子を注意深く観察する。年齢は四十代後半に見える顔つきに、瘦せ細った身体からはかつての覇気は感じられない。目に見える外傷は無いが、窓の外を見つめる瞳からは意思を読み取ることが出来なかった。
「……カイル、この二人はマコト君とエリちゃんよ。」セラの紹介にカイルはゆっくりと振り向き、此方を一瞥した後、セラを見つめ弱々しい声で呟いた。
「…………誰だ……?」カイルの目に警戒の色が宿る。まるで小動物の様に脅えている様だった。
「……もう、また忘れちゃったの?貴方の妻よ。怖がらなくていいわ、落ち着いたらご飯にしましょうね。」そう言ってセラは、少し寂し気な顔を一瞬だけ見せ、すぐにいつもの笑顔に戻り此方に軽く謝る。それから部屋を出ましょうとセラに促され、三人で居間に戻る。
「……がっかりしたでしょ。あれが今のカイルなのよ。かつて使いこなした魔法はおろか、私の名前すらもう覚えていないの……。」セラの表情から悲痛な気持ちが伝わってくる。なんと声を掛けようか逡巡していると、セラはカイルの食事を先に作ってくるわ、と言って居間から出て行った。
「……エリ。どう思う?」自分の考えをまとめる為、エリの意見を聞く。
「戦闘の後遺症ってセラさんは言っていたけどね……。表情や行動、症状から見てもアルツハイマー型認知症の可能性が高いわね。それも末期に近いわ。」エリはほぼ断定していいと表情で訴えていた。
「若過ぎる気もするけど、有り得ない事じゃない。戦闘で何らかの攻撃を受けて発症した可能性も有るか……。」セラに聞こえない様に、小声でエリと意見交換をする。
「材料さえ有れば錬金術でどうにかなると思う?」エリに問いかけ、あらゆる可能性を模索する。セラ夫婦の為に、何か出来る事は無いかと思考を加速させる。
「……無理ね。進行を抑える薬は作れても、特効薬は無いわ。異世界の霊薬やらエリクサーなんかが有るなら話は別でしょうけど、……あのセラさんが探していない訳がないでしょう。」エリの言葉は冷たいように聞こえるが、すべて事実だと解っているので非難したりはせず、対話を続ける。
「それなら、進行を抑える薬だけでも作って時間を稼ぐのは?霊薬の様な物が無いと決まった訳じゃない。」次善案をエリと探す。懸命に、より良い未来を引き寄せる努力をする。
「あそこまで症状が進んでしまっていては、薬の効果が出るとは思えないわ。……可能性が有るとすれば治療系のスキルじゃないかしら。」彼女は更に次の案を考え始めていた。
「……確かにスキルなら或いは……。」そんな呟きに彼女は、冷や水を掛ける。
「問題はどうやって治療できるスキル持ちを探すか、その人が協力してくれるのかってとこね。」彼女は僕の考えなど見透かした様に続ける。
「……貴方が目的の為には、手段は選ばない人なのは解ってるわ。それでも治療院を虱潰しに殺して周ってスキルを集める訳にも行かないでしょう。」考え得る最終手段に対し、窘める様に釘を刺した彼女はなる様になるしかないわ、と検討を打ち切った様だった。
無力な僕を責め立てる様に、窓を叩く雨音がより一層強くなっていった。




