目印、思い出、乙女心。
セラ夫婦が住むウィーデ村へ、セラの夫、カイルに会うために三人は街道を歩いていた。森が続いている地域を抜け、いよいよ人里に近づいてきたと実感した。
「……先を急いでるのに悪いわね。」自らの都合で予定を変えてしまった事が気掛かりなのだろう、申し訳なさそうにセラが口にした。
「さっきも言いましたけど気にしないでください。流石に疲れたので一休みしましょう。村に宿は有りますか?」この先何事も無いとは言い切れないので一日村で休息を取る事を提案する。
「宿は有るには有るけど、良かったら私達の家に来ない?我儘の代わりと言っては何だけど、せめておもてなしくらいはさせて欲しいの。」セラの申し出に、お邪魔じゃ無ければと素直に応じる。返答に満足そうに笑ったセラは何かを見つけたのか指を前方へ向けた。
「あそこに木が並んでるのが見えるでしょう?あの木が村に近づいた目印なの。」木を指差し、少しはにかんだ笑顔で口にするセラは少し照れている様にも見えた。その様子が気になったので聞いてみる事にする。
「あの木々に何かあるんですか?」問うと先程より、明らかに顔を赤くしながらセラは応える。
「……惚気話になってしまうんだけど……あの木々は結婚した時にカイルと一緒に植えたのよ。暖かくなると綺麗な花を咲かせる木でね。私の名前の由来となった花の木で、カイルがどうしても植えようって……。」段々と恥ずかしくなってきたのか、声が徐々に萎んでいった。
「すごくいい話じゃない!思い出の場所なのね!」照れてるセラも可愛いわ、と彼女が囃し立てる。そんなやり取りを繰り広げている内に、木々のすぐ近くまで来ていた。
「……この木……あれ?」通り過ぎ行く木々を観察していた彼女が、不意に空に顔を向けた。
「エリどうかした?何かあった?」そんな彼女を不思議に思い、尋ねる。
「……少し急いだ方が良いかも。多分降ってくるわよ。」その言葉に空を見て確認するが、現状晴れているが厚い雲が見える位で、雨が降ってくるかは判らなかった。
「風向きが変わったし、湿度も上がったから降るとは思う。」確証は無いけどね、と彼女は笑った。
「……もう少しで村には着くが、雨が降りそうなら急いだ方が良いだろう。」彼女の天気予報をセラは信じたのか、荷物を背負い直し歩き出す。村に近づくにつれ、徐々に早くなるセラに、早いな!と、思いつつ着いて行く。
まだ赤みの残る顔を見られない様にか、遂には駆け足程の速度になっていた。




