森、道具、夜更かし。
「ハァッ、ハァッ……。」鬱蒼と生い茂る森の中を、男が息を切らし走る。男の隣には馴染みの顔ぶれは無く、ただ木々の隙間から差し込む夕日が、赤く染めているだけだった。
「ちきしょう。あいつ等はやられたのか……?」訳も分からず襲い掛かられ、ほんの短い時間で分断されてしまった。ゴブリン退治の途中で、早くゴブリンを見つける為に間隔を開けていたのが仇になった。
もう体力の限界だと男は立ち止まり息を整える。束の間、背後の茂みから何かが蠢く気配を感じ、咄嗟に振り返る。
「くそっ!」男は悪態を付きながら十年来の相棒である片手斧を構え、油断なく気配のする方向へ意識を集中する。
「来るなら来やがれっ!」既に一刻以上走り回っていた男に、これ以上走れる余裕は無く迎撃の選択肢を選ぶ。茂みが揺れ、男が最大限の注意を払った瞬間、男の背後に影が映る。
「おらぁっ!」男は咄嗟に反応し、愛用の片手斧を影に振るう。
「ぐっ!?……なんだこの硬さはっ!?化け物がっ!」片手斧を持っていた右手が痺れ、まるで岩でも叩いたかの様な硬さに愕然とする。片手斧では、まるで有効打にならないと相棒を擲ち、僅かな体力で逃亡を図るも追いつかれ、組み付かれる。
「嫌だ……死にたくない!死にたくなっ……。」男の叫びは誰にも届かなかった。
「結構時間が掛かっちゃったね。宿に行って明日の準備して早めに休もう。」辺りはもう日が沈み、夜の帳が落ち始めていた。時間が掛かった割に、中身の少ない買い物袋を持って彼女と共に宿へ急ぐ。
この時間じゃもう食堂はやってないだろうと考え、屋台で串焼きを数本買って帰路に就く。
「さて、じゃあ始めますか!」宿の部屋に戻り、屋台の串焼きを夕食として胃に落とした途端に、買い物袋の中身を広げ、少し高揚した気分で目の前の道具達を見つめる。
「何か面白そうな事してるわね!私もやるから少し待ちなさい!」彼女は味わう様にゆっくりと食べていた串焼きの残りを焦って口に頬張った。
「ゆっくり食べたらよかったのに。言われなくても一緒にやるよ。」まるで子どもの様な彼女の仕草に、苦笑しつつ唱える。
「生命の書、開け。」左手の甲の宝石から事典が浮かび上がると、指で操作し、道具のタブを開く。
「セラさんに聞いた野営に必要な物。どうせならいい奴が良いよね。」そう呟くと、彼女と共に笑い合いながら打ち合わせしていく。二人の野営準備はこの後数時間掛かるのだった。




