資料、薬、紅茶。
「善い人だったわね。あんなに楽しそうなマコト初めて見たわ。」研究者同士の会話に一切、口を挟まなかった彼女が寂しさを察してか、声を掛ける。
「そうだね。間違いなく、今までの人生で出会った中で一番の人格者だったよ。」先程まで友が座っていた場所には誰も居ない。冷めたティーカップだけが残されていた。
「さて、しんみりしてても仕方がない。許可も得たし、頂けるものは頂いて行こう。ただし、資料と説明して貰った薬だけね。棚なんか運べないし。資料集め手伝ってよね。」そう彼女に指示を出すと、生命の書を開いた。
「ソーマ。資料の中身だけ貰っていくよ。此処に有る物は君の生きた証そのものだからね。」亡き友を思い彼女と共に資料を写し取っていく。先程、話に出た陰謀の資料に一瞬目を落とすが、すぐに作業に戻る。
晩年に書いたであろう。手記や、人体錬成に使ったと思われる陣、はたまたソーマが未熟だった頃の失敗資料まで、文字通り全て写し取った。
「これで全部かな……。手伝ってくれてありがとう。この量は一人じゃかなり時間が掛かっちゃうからね。」彼女に感謝を告げ、作業台にしていた机から立ち上がる。
「手伝うのは当然でしょ。今後役に立つ物も有るかも知れないし、この国が怪しいってのも捨て置けないしね。」彼女はそう言うと、こちらに向かって下手糞なウィンクをした。優秀なのにこういう所が抜けてるんだよなと、声には出さないが苦笑し、すっかり慣れた黴と薬品の匂いに包まれた部屋を見渡す。
「それじゃあ行くよ。またね。ソーマ。」入口へと向かって歩き出す。その歩みは軽やかだった。
「待ちなさい。忘れ物してるわよ。」彼女の言葉に、首を傾げ何かあったかなと考える。
「あるでしょ。一番大切な物。」彼女はジェスチャーでヒントを出してくれる。自分で思い出せと云う事らしい。
「……あぁ。確かに忘れちゃいけない大切な物が有ったね。引き留めてくれて、ありがとう。」ヒントで思い出し、彼女に感謝を伝えると、部屋の壁に歩いて行く。
保存棚から様々な紅茶の茶葉を恭しく取り出し、小さめのバッグへ収納していく。
「今度こそ行くよ。お茶御馳走様。」二度目の挨拶を告げ入ってきた隠し扉から足を一歩踏み出す。
随分話し込んでいたようだ、教会の裏手から外に出ると、辺りは赤く染まっていた。
「宿に戻って色々整理をしよう。やらなきゃいけない事もできた。」そう彼女に告げると、教会を後にする。
これからもきっと教会の中には、豪奢な墓石が永遠に其処に在るのだろう。




