愛、遺志、友。
「私は結局、何も遺すことが出来ず、こうして亡霊として見守る事しか出来なかったのですよ。偉大な錬金術師と持て囃されても、所詮は一人の人間でしか無かった。」ソーマは悔しさを滲ませながら、自嘲するように笑う。
「そんな事は有りません。」ソーマの言葉を力強く否定する。
「この街を見て周り、観察した上で言います。この街の人は錬金術を文化とし、皆、笑顔で生きておりました。そして何より皆が貴方を愛していた。これ以上ない位、貴方は人々に、愛を遺しました。」純粋な気持ちを自嘲するソーマにぶつける。
「そして、私もその一人です。貴方は此れまで、見えぬ敵と一人で戦って来ました。議論を交わした同志として貴方の遺志を、継がせては頂けないでしょうか?」ソーマは目を見開き、一瞬の間を置いて、満面の笑みを浮かべた。
「やはり貴殿は素晴らしい。同志として是非とも我が研究を継いで貰いたい。この研究室にある資料、成果全て貴殿に差し上げましょう。我が魂、貴殿と共に行かせて欲しい。」ソーマは立ち上がり、目の前まで近付いてきた。
言葉は交わさず、左手をソーマに向け、唱える。
「死霊術、契約」
手の甲の宝石から、淡い光が伸びてソーマに繋がる。光がソーマをゆっくりと包み込み、まるで魂が繋がるように光とソーマが溶け合っていく。
「心地良い光です。まだ少し時間が有りそうですね。最後に聞きたいことは有りますか?」ソーマは時間の許す限り会話を楽しみたいようだった。
「では、長年の疑問を。貴方は錬金術で、人間を造る事は出来ましたか?」予てより、錬金術により人間を造る事は、数多の物語でも禁忌として成功した例は余り見ない。錬金術が現実の世界で、それは成功したのか純粋な学術的興味であった。
「ふふ……。貴殿は生粋の研究者の様だ。結論を言うと、人体の錬成には、成功しております。……ただし、息はするが目覚めない。やはり魂が鍵の様でした。生前、後二十年程寿命が有れば研究できたで有ろうに無念です。」最後にまだ研究したかったと残念がる彼は、しかし満足したと笑みを浮かべ、言葉を遺す。
「そろそろ時間の様です。……産まれ落ちて六十余年、死後二百年以上も経って、生涯最高の友が出来るとは。今までのどんな研究より愉しかったですよ。ありがとう、友よ。末長く、知識の海を泳いで下さい。では御機嫌よう。」名乗った時の様に、恭しく一礼しながらソーマは光に包まれ消えていった。
「……それは此方の台詞だよ……。ソーマ。」
去って行った友に、返した言葉は届く事は無く、ただ主人の居なくなった部屋に静かに響いた。




