お茶、談笑、研究者。
「ソーマと申します。以後、お見知りおきを。」目の間に立つ男が死霊だとすぐに理解したが、こちらに悪意を感じない。しかしここまで自我を保っている魂は初めて見るので慎重に様子を窺う。
「そう警戒せずとも大丈夫ですよ。取って呪ったりしません。」ソーマと名乗った魂は、笑みを浮かべながら、後ろを指さし告げる。
「次の方が困ってしまっています。あちらへ移動しましょう。」その言葉に一先ずの危険は無いと判断しソーマに向けていた左手を下す。後ろの方に謝り、促された場所へ移動する。
「さて誤解は解けたようですし、御時間が許すのなら私の研究室でお茶でもいかがですかな?驚かせてしまったお詫びに御馳走させて貰いますよ。」
「大錬金術師の研究室……。」ソーマのその提案に生唾を吞み込み、二つ返事でその招待を受けた。選択肢は無かった。
「ようこそ。我が研究室へ。」ソーマの案内で教会の裏手から隠し扉を潜り、地下研究室へ足を踏み入れた。長年使われてないせいか少し黴臭く、同時に薬品の匂いが染みついた、空間だった。
「申し遅れました。私はマコト、彼女はエリと申します。本日はお招き頂き有難うございます。」死霊ではあるが、一流の研究者だ、礼節を持って接する。
「此れは此れは御丁寧に。どうぞ、そちらの棚に茶葉が有ります。お好きな銘柄を淹れて楽しんでくださいな。本来は招待した手前、私が手ずから淹れて差し上げたいのですが、なにぶんこの身体なのでご容赦願いたい。」ソーマは自らの不出来に頭を下げ心からの謝罪を伝えた。
「いえ、解っていますので、頭を上げてください。」棚から茶葉を選び、同じ棚にあったティーセットで二人分の紅茶を淹れた。湯気が立つ紅茶からは、上品な甘い香りが立ち上り、紅葉の様な鮮やかさの色合いだった。
「これは良い茶葉ですね。香りがとても良い。」紅茶に口を付け、口を通り、鼻腔に抜ける香りを存分に楽しむ。
「そうでしょう、そうでしょう。その棚に有る茶葉は、生前のお気に入りなのですよ。他にも気になれば、お土産にどうぞお持ちください。」私にはもう必要有りませんからと、穏やかに笑い遠慮は要らないとソーマは示す。
「この茶葉……何故劣化していないんです?」ふと、疑問に思った事を素直に問う。
「そこに気が付きますか……。あの棚は私が錬金術で作った、中の物の品質を一定に保つ棚なのですよ。二百年経っていても美味しいでしょう?」実に興味深い。常温の鮮度の落ちない冷凍庫といったところか。元の世界に在ったら便利だったろうな。と益体も無い事を考える。
「他にも色々と作りました。茶葉と同じ棚に見える、試験管に入った緑色の薬、あれは劣化薬と名付けました。あの液体を掛けると、掛けられた物質の組成を崩壊しやすくなる物になっております。保存棚とは真逆ですね。」指を差したソーマに、そんな危険な薬を茶葉の近くに置くなよ……。とソーマに少し冷ややかな視線を送り、零さなくて良かったと安堵した。
そしてお茶のお替りを幾度かした後、こう切り出した。
「偉大なる錬金術師、ソーマ殿に単刀直入にお聞きします。」そう前置きをして、一つ呼吸を置き、一番気になっていた事を質問する。
「錬金術とは何なのでしょうか?」純粋な疑問を錬金術に於ける第一人者に問うた。




