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彼女の隣で、僕は眠る  作者: 粗川燕(あらかわつばめ)
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朝、初めての食事。

 「起きて!起きてってば!」呼び起こされ、重たい瞼を開ける。

 「おはよう!」目の前には綺麗な彼女。寝ぼけた頭で、この世のものとは思えないな……。等と考えていると段々と頭が再起動を始め、欠伸を噛み殺しながら答える。

 「うん。おはよう。」朝の挨拶を交わすと窓を開け、新鮮な朝の空気を取り込む。忙しそうな街の喧騒と共に、湿った空気が入れ替えられ、先程までとは変わって随分すっきりした。


 「起きたわね!下の食堂でご飯食べて、出発よ!」朝からご機嫌な彼女に急かされ立ち上がり身支度を整える。ふと、視界の隅に映るベッドシーツの赤い染み。眉間に皺を寄せ一瞥し、彼女に促されるまま部屋を後にする。


 一階に降り、フロントとは逆に進むと食堂に辿り着く。支度中だろうか、煮込み料理特有の、濃厚な香りが立ち上っていた。

 客席には客は居らず、まだ早かったかと考えつつも、部屋に戻ることはせず、適当な席に座る。


 「おい。」椅子に座った音で気が付いたのか、店主が厨房から此方へ近づいてきていた。

 「昨日、夜中はなるべく静かにしろって言ったよな?」一瞬の殺気に、すかさず両手で頭を庇いつつ、衝撃に備える。

 「はぁ……。」店主は此方を上から下まで、くまなく観察し、ため息をつくと切り出した。

 「若さに任せてあんまり無茶すんなよ。……飯食うなら鉄貨4枚だ。」不愛想ではあるが、優しい人なんだなと感じ、銅貨1枚を左手で取り出し店主に渡す。

 「迷惑料込です。残りは貰ってください。」そう言うと店主はぶっきらぼうに銅貨を掴み厨房の奥へ戻っていった。

 「迫力凄かったわね……。」ヒソヒソと店主に聞こえないように彼女が囁く。

 「昨日の一撃は貰いたくなかったからね……。経費、経費。」聞かれたら今度こそ御見舞いされそうな物だが、幸い厨房までは届いて無いようだった。


 暫く、二人で軽く打ち合わせしていると店主が料理の乗ったトレイを片手に戻ってきた。

 「特製スープとパンだ。多めに貰ってる分、足りなかったら遠慮せず言いに来い。それじゃあな。」

 店主はそう言うと再び帰って行った。

 「あの人、怖い感じするけど、根がいい人ね、可愛いわ。きっとあの子は父親似なのね!」彼女の可愛いの定義が解らない。見た目厳ついスキンヘッドのおっさんだぞ。そうは思っても、間違っても口にはしない。大人だから。

 「あまり大きな声で言うなよ?怒られるからな……。」聞かれていないか確認しながら配膳された料理に意識を戻す。


 「あら美味しそうじゃない。外見とは関係なく、家事ができる男っていいわね。」自称、違いの分かる女って感じを振りまきながら彼女は持論を展開していた。

 熱く語り出した彼女を横目に匙を取り、スープに埋めていく。ゴロゴロとした野菜と、ほろほろに煮込まれた鶏肉が入ったコンソメスープに近い味わいだった。野菜と鶏のコクが溶け出した、絶品と言って差し支えない味に、一心不乱に食べ進める。


 気が付けば、皿は空になっており温かい物を食べ、満たされた充足感によって、冷え切っていた心に僅かな火が灯った。

 

  

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