バッドコミュニケーション、パーフェクトコミュニケーション。
大通りを練り歩きつつの観察を終え、人目の少ない路地に入り、行動に移す。
「生命の書、開け。」最早見慣れ、使いこなし始めていた異世界事典に変化が起こっていた。
「これで宿屋どころか色々と何とかなりそうだ。」そこに在ったのは、言語タブに表示された膨大な数の文字だった。
「歩き回った甲斐が有った。」結果に満足しながら呟いた。
「あら、だいぶ記述が増えてるじゃない。」彼女はその変化に、いの一番に気づき言った。
「使った物、見た物、聞いた物に反応して記述されるみたいだから試してみたんだ。それに……」話しつつアーティファクトのタブに切り替え記述を見る。
「生命の書が表示されるようになった。でも、これって……?」そのタブを詳しく見る。
“生命の書” 習熟度1 “ホメーロス” 習熟度6
「ホメーロス……?デバイスの名前か!そんな名前だったっけこれ。」自分がカスタマイズした、デバイスの正式名称を忘れてたなんて、本当に道具に執着がないんだなと、熟々と自己分析する。
「あーあ。デバイスちゃん可哀想。」彼女がジト目で抗議の声を上げている。黒い宝石も点滅し抗議しているかのようだった。
「何にせよ、これで人と会話なり出来るようになったはず。宿屋までの道を誰かに聞きに行こう。」形勢の不利を悟り、無視して告げた。
「じゃあ、さっきの猫の人!」彼女が力強く宣言し、どうやら異世界での初めてのコミュニケーションは、別種族になる様だった。
事典を片手に初めての異世界人との交流を果たし、何とか宿の場所を教えてもらい辿り着く。スマホの翻訳アプリ片手に、全く言葉の通じない国に行った気分だった。というか、そのまんまだった。
「ありがとう。親切な猫の人……。」おっかなびっくり声を掛け、現地人に道を聞くなんて引きこもり気質の人間にはキツイ!と思ったが、ものすごく優しく丁寧に教えてくれた猫の人に感謝を捧ぐ。
「猫の人可愛かったわねぇ。……一人飼えないかしら……?」何やら不穏な発言をしてるのが居るが無視しておこう。
「とりあえず宿を取ろう。色々有りすぎてもう疲れたよ……。」そう言いながら宿屋の扉を開き中へ入って行く。
中に入ると、規模としては小さなフロントがあり、カウンターの奥には、厨房の一部が顔を見せていた。
「ごめんくださーい」事典を片手に入口から声を掛ける。
すると、カウンターの反対側に茶色い触覚が飛び出した。気になって覗き込むと、髪をちょんまげ結びにした、6,7歳くらいの背の小さな女の子が椅子に座り船を漕いでいた。
「……可愛いわね。」可愛い物には見境がないらしい。




