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織田信長  作者: 本間敏義
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第二話 父の死と継承

第二話 父の死と継承



尾張に、静かな波紋が広がっていた。




織田信秀の死。




それは一人の男の死ではない。


尾張という地を支えていた柱が、崩れ落ちたということだった。




そして、その後を継ぐ者。




――織田信長。




「……あの“うつけ”が、か」




家臣たちの間に、不安と不満が渦巻く。




誰もが見てきた。


裸同然で町を歩き、奇行を繰り返すあの姿を。




あれが、織田を率いる?




笑えぬ冗談だった。




城内の空気は、重く沈んでいた。




評定の間。




重臣たちが並び、互いに視線を交わす。


誰もが口に出さぬだけで、同じ考えを抱いていた。




――このままでは、織田は滅びる。




その時だった。




襖が、音もなく開く。




ゆっくりと、一人の男が入ってくる。




信長だった。




場の空気が一瞬で張り詰める。




だが――




その姿は、これまでとは違っていた。




乱れていた髪は整えられ、


衣は簡素ながらも、きちんと身にまとわれている。




静かに、まっすぐに歩く。




誰一人、声を発せない。




信長は座し、


ゆっくりと家臣たちを見渡した。




その眼差しは、鋭かった。




「……申せ」




短い一言。




それだけで、場の空気が変わる。




ざわめきは消え、


誰もが言葉を飲み込む。




先ほどまでの“うつけ者”の影は、どこにもない。




そこにいるのは――




冷静に場を支配する、一人の当主だった。




「尾張は、乱れている」




信長が言う。




「内も外も、敵ばかりだ」




その言葉に、誰も反論できない。




事実だった。




家中は分裂し、


外には今川や斎藤といった強敵が控えている。




「だが――」




信長の声が、低く響く。




「このまま滅びるつもりはない」




その一言に、空気が震える。




強い意志だった。




揺るがぬ覚悟だった。




誰もが見た。




あの“うつけ”と呼ばれた男の中に、


確かに存在する、異質な何かを。




信長は立ち上がる。




「織田は、俺が率いる」




言葉は短い。




だが、その重みは圧倒的だった。




誰もが、何も言えなかった。




反論することも、否定することもできない。




なぜなら――




その場にいた誰よりも、


信長の覚悟が強かったからだ。




風が吹く。




尾張の空は変わらない。




だが、その下で――




確実に、何かが動き始めていた。




“うつけ者”と呼ばれた男は、


その仮面の奥で、すでに次の一手を見据えている。




それに気づいた者は、まだ少ない。




だが――




気づいた時には、もう遅い。

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