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織田信長  作者: 本間敏義
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第一話 尾張のうつけ者

第一話 尾張のうつけ者



尾張の空は、どこまでも高かった。




城下町の人々がざわめく。


挿絵(By みてみん)


「あれが……織田の嫡男か」


「まるで人の形をした獣だな」




視線の先にいたのは、ひとりの若者。




上半身は裸。


腰には無造作にひょうたんをぶら下げ、


足取りも定まらぬまま、町を歩いている。




髪は乱れ、目はどこか虚ろ。


だが、その奥には、何か得体の知れぬ光が宿っていた。




名を――吉法師。


後の、織田信長である。




「うつけ者め」




誰かが吐き捨てる。


それは一人ではない。




町人も、家臣も、


誰もが同じ言葉を口にしていた。




だが――




その日、尾張に大きな変化が訪れる。




織田信秀、死す。




城内は重苦しい空気に包まれ、


厳かに葬儀が執り行われていた。




家臣たちは正装し、


静かに頭を垂れている。




その場に、あの男が現れた。




裸同然の姿のまま。




ざわめきが広がる。




「何を考えている……」


「ここは父君の葬儀だぞ……」




誰もが息を呑む中、


吉法師――信長は、ゆっくりと歩み出る。




その手には、焼香の灰。




一瞬の静寂。




次の瞬間――




信長は、それを掴み上げ、


位牌へと叩きつけた。




バシン――


挿絵(By みてみん)


乾いた音が響く。




空気が凍りつく。




「な……何を……!」




怒号が飛ぶ。


だが、信長は振り返らない。




そのまま踵を返し、


何事もなかったかのように去っていく。




残されたのは、沈黙だけだった。




――狂っている。




誰もがそう思った。




だが、その中でただ一人、


静かに目を細める者がいた。




(あの男……)




その振る舞いは、確かに常軌を逸している。




だが――




本当に、それだけか。




誰もが見下したその姿の奥に、


何か別のものが潜んでいるとしたら。




風が吹く。




尾張の空の下、


“うつけ者”は歩き続ける。




その足取りは不安定で、


どこへ向かうのかも分からない。




だが――




この男が、やがて時代を壊し、


新たな時代を創ることを、




この時、まだ誰も知らなかった。

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