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織田信長  作者: 本間敏義
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第十一話 本能寺前夜 ――揺らぐ天下人

勝利の報は、京にも届いていた。




長篠。




織田信長が、武田勝頼を破った戦。




それは、もはや一つの戦ではなかった。




時代そのものが、変わった証だった。




天下は、見えていた。




誰もがそう思っていた。




だが――




信長は、静かだった。




京。




本能寺。




夜は深く、音もない。




灯の揺れる部屋で、信長は一人、座していた。




「……早いな」




ぽつりと、言葉が落ちる。




それは、勝利を喜ぶ声ではない。




すべてが、あまりにも順調すぎる。




武田は滅び、




畿内は押さえ、




残るは、わずか。




だが――




「順すぎる道ほど、危うい」




信長は、そう呟いた。




その目は、戦場を見る目ではなかった。




もっと遠く――




見えない何かを見ている。




やがて、障子の外に気配がする。




「誰だ」




静かな声。




「……明智光秀にございます」




わずかな間。




「入れ」




障子が開く。




光秀は、頭を下げたまま、動かない。




「申せ」




短い言葉。




光秀は、顔を上げる。




その表情は、読めない。




忠義か。




それとも――




「中国方面の件、進めております」




事務的な報告。




信長は、ただ聞いている。




「羽柴めは、よくやっておるな」




豊臣秀吉の名が出る。




「はっ」




光秀は答える。




だが、その声には――




ほんのわずかな揺らぎがあった。




信長は、それを見逃さない。




「……どうした」




沈黙。




一瞬の、空白。




やがて光秀は、深く頭を下げる。




「……いえ」




それ以上は、何も言わない。




風が吹く。




灯が揺れる。




二人の間に、見えない何かが流れる。




信長は、ふっと笑った。




「人は、面白いな」




光秀は答えない。




ただ、深く頭を下げたまま――動かない。




やがて、信長は手を振る。




「下がれ」




「はっ」




光秀は静かに下がる。




障子が閉まる音が、




やけに大きく響いた。




再び、一人。




信長は、ゆっくりと目を閉じる。




「……来るか」




誰に向けた言葉でもない。




ただ、確信のように。




夜は、静かに更けていく。




そして――




すべてが動き出す。




本能寺の変へと。

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