第十話 長篠の戦い ――三段撃ち
第十話 長篠の戦い ――三段撃ち
空気が、張り詰めていた。
三河・長篠。
ここでぶつかるのは、二つの時代。
甲斐の軍勢――
武田勝頼。
その中心にあるのは、誇り。
武田騎馬隊。
速く、強く、そして恐れられた存在。
「騎馬が出れば、勝つ」
それが、戦国の常識だった。
だが――
その常識を壊す男がいる。
織田信長。
「来る」
信長は、戦場を見据える。
遠く、地鳴りのような音。
武田の騎馬隊が動き出す。
土を蹴り、風を裂き、一直線に迫る。
恐怖が走る。
だが、信長は動じない。
すでに準備は整っている。
並べられたのは、鉄砲。
その前に築かれた、木柵。
騎馬の突進を止めるための壁。
「撃て」
轟音。
火花。
煙。
弾丸が、戦場を貫く。
騎馬隊が崩れる。
だが、それでも突っ込んでくる。
止まらない。
それが武田の強さだった。
「次」
信長の声が響く。
撃った者が下がり、
次の列が前へ出る。
再び――
轟音。
止まらない銃撃。
絶え間ない攻撃。
それは、これまでの戦にはなかった光景。
三段撃ち。
交代しながら撃ち続けることで、
隙を消す。
騎馬隊は、進めない。
前に出れば撃たれ、
止まれば撃たれる。
誇りが、崩れる。
常識が、崩れる。
「なぜだ……」
誰もが理解できない。
これまで通用していた戦い方が、
通じない。
信長は、ただ見ていた。
戦の流れが変わる瞬間を。
やがて――
武田軍、崩壊。
静寂。
煙が、ゆっくりと流れていく。
その中で、信長は言う。
「これが、戦だ」
力ではない。
速さでもない。
仕組み。
考え。
戦は、変わった。
この瞬間に。
風が吹く。
火薬の匂いを運びながら。
それは、新しい時代の風。
織田信長は、また一つ――
時代を壊した。




