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第9話『もうホラーは見たくない』


 ――一時間半ほど、経った。エマが見たいと言い出したホラー映画は終わり、一気に画面が暗くなる。

 そんな中、エマは俺の顔を見て、


「ふぅ、めっちゃくちゃ面白かったね!」


「――ああ、そうだな……」


 一体どういう感性をしているんだエマは。すっげぇ明るい顔をしている。あの映画を見て、なんでそんなに笑顔になれるのか……。


 俺は、「ああ、そうだな」と答えたが、正直面白くはなかった。話の内容としては、面白かったと思う。が、しかしだ。それを上回る恐怖が、俺の心を襲ってきた。


「――? れーくんどしたの? 元気ない?」


「……いや、なんもねえよ」


 ――あー、やばい。涙出そうだ。この一時間半、ずっと泣くのを堪えてた。怖すぎて。まずい、ガチで涙が出てくる。


「悪い、トイレ行ってくるわ」


「おっけー」


 隣に座って、俺の腕にくっついていたエマから離れ、俺は廊下に出てからトイレに入る。

 そして――、


「あー、やっば……なんなんだあのゾンビ映画……。――ダメだ、涙止まんねぇ」


 泣き声を出す、とまではいかない。が、涙が止まらず目から溢れてくる。ほんとに、怖いのがめっちゃ苦手なんだ、俺は。



 ――早く落ち着こう。ハンカチで涙を何度も拭いて、俺はトイレを出た。そして、隣接してる洗面所で、顔を洗う。


「――こんなもんか」


 またハンカチで顔を拭いて、俺はリビングに戻った。


「……なんか怖い」


 これは俺だけなのかもしれないが、俺は、大抵怖い話を見たり聞いたりすると、その事が一日中忘れられなる。

 そして、今のように廊下を一人で歩いてたりすると、後ろから追いかけ回されるような感じがして背筋が凍るんだ。


 ――しかも、よりによって見たのが、ゾンビに追いかけられる映画だったということも拍車にかかっている。


 少々早足で歩き、俺がドアからリビングに入ると――、


「うわぁ!?」


「あ、ごめん!」


 キッチンに向かおうとていそうなエマとぶつかってしまい、驚いたエマがそのままよろけてしまう。

 ――何とか、俺が手を取って引き寄せたから、転んで尻もちをつくなんてことはなかった。


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫……」


「良かった……」


 そして落ち着いた頃、俺はエマから手を離すと、エマはキッチンに向かっていく。で、急に振り返ると、


「アタシ、今からご飯作るから、れーくんお風呂入ってて良いよ!」


「あ、マジ? じゃあそうさせて貰うわ」


 まだエマが来て二日目だが、料理を担当してくれてありがたい。――俺も、何かお返しで料理してあげたいが、下手すぎて美味しいものを作れる気がしない。とりあえず、それ以外の部分で俺はエマを支えよう。


 ――そんな風に思いながら、俺は再び廊下に戻って、クローゼットから服を取って洗面所に行く。


 ――ヤバい。一人になって、また怖くなってきた。もう、考えるのはやめよう。


「早く上がろ……」


 俺は服を脱いで、風呂場のドアを開けて中に入った。




「――ふぅ」


 髪と身体、顔を洗い終わると、俺は湯船に浸かる。入れたばかりで、あったかい。

 今は四月だし、冬よりは暖かくはなったが、それでも夜は寒かったりする。今のうちに、風呂で温まっておこう。


「よいしょ……」

 

 肩まで浸かると、俺はそのまま目を閉じる。そしてそのまま今日のことが頭に浮かんできた。


「――――」


 朝、登校中に男子生徒にめちゃくちゃ見られた。

 昼、昼食を持ってないエマに、カレーパンを買って、優奈(ゆな)に渡して貰った。

 五限では間違って持ってきたエマのジャージを着て、放課後はパフェを食べに行った。

 ――で、夜はゾンビもののホラーを見た。


「――最後だけノイズすぎるんだけど……」


 考えないよう思っていても、頭にゾンビの顔が浮かんでくる。俺は、自分でも記憶力は良い方だと思っているのだが、こんなことも起きるから不便にも感じてしまう。


「――一人無理だ、上がろ」


 もっと温まろうと思ったが、無理だ。一人は怖すぎて、もうここにいれない。早く、リビングに戻ろう。



◆◇◆◇



「上がったぞ」


 パジャマに着替え、俺はそそくさとリビングに戻ると、そうエマに伝えた。そしたら、エマはキッチンから顔を出し、

 

「おっけー! ご飯もうちょっとだから、待っててね?」


「ああ。――俺も手伝おうか?」


「いや、いいよ。れーくん料理下手だからね〜」


「悪かったな!?」


 ――ま、俺の料理の下手さを知っているエマが手伝わせようとはならないよな。だがまあ、何にもせずに座っているのも嫌だ。

 だから俺は――、


「皿だけでも準備しとくよ」


 食器棚から、ご飯、味噌汁、おかず用の皿をそれぞれ出して、置いた。そして、俺はご飯の皿を取って、


「ご飯もう出来てるよな?」


「うん! 映画見る前にすぐに炊いたからね!」


「映画の話はやめてくれ……」


 ――俺の嘆きは、小さくて聞こえなかったみたいだ。エマが「え、なんて?」と言ってきたから、俺は「いや、なんでもない」と答えて、俺とエマの茶碗にご飯を入れる。


 ――そしたら、エマも作り終わったのか、皿を持って料理を入れている音が聞こえてくる。


「よし、じゃあ運ぼうか!」


 注ぎ終わったエマが、皿を両手に持ってテーブルに並べる。俺もご飯を並べて、箸を置くと、――俺らは椅子に座った。


「――やっぱそっちなんだな」


「れーくんの隣で良いでしょ?」


「うん」


 やっぱり俺の隣に座るエマに、もはや――というか、そもそも文句などない。嫌なわけじゃないし、俺はそのままテーブルに並べられたご飯を見つめる。


「じゃ、食べよ?」


「ああ。――いただきます」

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