第8話『これは本気でまずい』
――しばらくすると、店員さんがイチゴパフェを二つ持ってきてくれた。メニューに乗っていた通りの美味そうなパフェだ。でっかいイチゴが乗ってるし、美味しそう。
「わぁー! すっごく美味しそう! 写真撮っちゃお!」
俺はもう早速食べ始めたのだが、エマは目をキラキラさせて、スマホでパフェの写真を撮り始めた。
撮って、撮って、撮って――、
「いや何枚撮るんだよ」
「だって美味しそうだし! れーくんは写真撮らないの? もう食べてるけど」
「別に撮らなくて良くね? って思って。見返したりしないと思うからさ」
「えー勿体ないなぁ」
エマも、食べ始めた。スプーンで上のイチゴとクリームをすくって、一口。すると、また目をキラキラさせた。
「すっごい美味しいこれ! 来てよかったね!」
「な。学校の近くに、こんな美味しいカフェがあるなら来とけば良かった」
俺はエマほど顔に出していないが、このパフェはマジで美味い。こんな美味いなら、もっと早く来ておけば……。
ちょっと損した気分だ。
「れーくん!」
「ん? どうした?」
食べていると、突然名前を呼ばれ、俺はエマの顔を見る。そしたら、エマはスプーンに一口すくって、俺にそれを向けていた。
「あーんして?」
「え? 一緒の食べてるのに? 別にしなくても――」
「良いからあーんして!」
そういうのって、別のを食べてるときにしないのか? 同じパフェを食べてるのに……。と思うのだが、エマが頬を膨らませて不満そうなので、俺は仕方なく顔を近づけて、
「――あーん」
スプーンにパクリとして、食べた。味はというと、
「――味変わんねえな」
「そりゃそうだよ。同じの食べてるもん」
「じゃあなんで食べさせたんだよ!?」
――こいつはほんとになんなんだ。何で食べさせたんだよ……。
――ま、食べさせてくれたし、俺もやるか。
「エマ」
「なーに?」
「ほら、口開けろ」
俺は自分のパフェをスプーンで一口とって、エマに向ける。
まさか俺がやってくるとは思わなかったのか、驚いた顔を一瞬したが、すぐに顔を近づけて、
「あーん」
食べた。そしたらエマは口を抑え、なんか顔を赤くし始めた。
「あ、ありがと。――美味しかったよ?」
「そう? 良かった」
――それからは、ただ黙々と食べ続け、――完食した。
「ふぅ、食った食った。にしても、めっちゃ美味かったなここ」
「うん! 美味しかったー! これから毎日来ようね!」
エマが笑顔でそう言ってくると、俺は、
「――毎日は流石にしんどいぞ……」
◆◇◆◇
「ただいまー。今日も疲れたー」
俺とエマは、マンションに帰りついた。玄関のドアを開けて中に入ると、エマは真っ直ぐソファーに向かい、バタッと倒れる。
「ほら、制服がぐちゃぐちゃなるぞ。着替えろ」
「えーめんどくさーい。だってもう六時過ぎてるし、すぐお風呂入るでしょ? 着替えるのもったいないよー」
「ま、洗濯物増えちゃうか。じゃあそのままでいいよ」
「やったー!」
ソファーでダラっとしてるエマ。いつも元気なのに、今日はダラダラしている。まあ、高校一発目の六時間授業だったし、相当疲れたのかもな。
「エマ、足ちょっとどけて。俺も座る」
「良いよー。――どうぞ!」
俺はブレザーを脱いでシャツ姿になり、エマが退けてくれたところに座る。――そしたら、エマは俺の太ももにそのまま足を下ろして来やがった。
「あ、おい」
「えーダメ? あ、じゃあ頭ならいい? 膝枕して?」
「はぁ、まあ良いけど」
エマは身体を回して頭と足の位置を変え、俺の太ももに頭を乗せた。――頭だし、ちょっと重いな。しかし、そんなこと言ったら不機嫌になりそうだし、言わないでおこう。
「ねぇ、頭なでなでして?」
「え? うん。こうか?」
右手でエマの頭を優しく撫でてやると、エマは「んふふ〜」と声を出した。
「――金髪綺麗だな」
「えへへ、そうでしょ? いつも手入れしてるからねー」
本当に綺麗な金髪だと思う。色落ちもしてないし、輝いている。しかもめっちゃサラサラだ。
――そうやって撫で続けていると、エマが突然「あ!」と叫んだ。俺は驚いてしまい、
「急になんだよ」
「ごめんごめん、映画見たいなーって思ってさ!」
「映画? どんなやつ? コメディーとか?」
突然映画を見たいとは、これまた急なやつだ。だがまあ断る理由もないし、俺はどの映画が良いか尋ねる。面白いのでもあるのかな、と思っていたが、エマの返答は想像と違った。
「ホラーだよ! ゾンビものの映画見たい!」
「……なーに言ってんの? え? ガチ?」
「ガチガチ! ねー、良いでしょ?」
「あ、ああ、良いよ……」
ホラー映画を見たいとか抜かしやがった。俺は一応許可したのだが、実は俺はホラー映画が大の苦手だ。ほんと、ガチのマジですぐに泣きそうになる。
――そんなの知られたら恥ずかしすぎるから、今まで誰にも教えたことはない。もちろん、エマにも。
「れーくんもホラー好きでしょ?」
「え……? あ、ああ、好きだよ?」
そして、ホラー映画が好きなエマは、昔から俺を誘って見ていた。俺はいつも泣かないように何とか我慢していたし、エマの誘いを断ったこともなかったから、俺もホラー好きだと勘違いされてるのだ。
――これは非常にまずい。昔なら、まだちょっと甘い感じのホラーだったが、今のエマがどの程度のヤバさのホラーを持ってくるか分からない。
これはもう、覚悟を決めるしかない。
「――で、ゾンビものって言ってたけど、どんなやつ?」
俺の質問に、エマは「えーとね」と言いながらスマホをいじって、画面を見せてきた。
「こんなやつ!」
その画面は、いかにもリアルなゾンビたちと、逃げている人間が移ったポスターだった。――うん、絶ッ対ヤバいやつだ。
――ああ、終わった……。




