第7話『帰り道のカフェ』
「はい、じゃあ終礼終わります。気をつけて帰れよー」
六限の授業が終わり、終礼の最後で先生が言った。そして、先生が教室から出てから、俺は立ち上がってカバンを持つ。
で、帰ろうとしていると、優奈が話しかけてきた。
「どうした?」
「エマが待ってるよ」
「え? ――あ、ほんとだ」
優奈の指差す、教室の後ろのドアを見ると、笑顔で俺に手を振るエマがいた。
「じゃあ俺帰るから」
「うん。バイバ――。あ、待って、アタシも帰るから」
「え? 湊は? それにお前天文部の部長だろ」
湊は部活。天文部はアタシ一人だけだし、どうせ今日から新入生なんて来ないから、帰るよ」
優奈は、俺の親友の湊と付き合っていて、いつも一緒に帰っているのだが、湊は部活であり、彼女の所属する天文部も、どうせ優奈一人だと言う理由で帰るようだ。
俺は優奈の準備を待って、カバンを持った優奈を確認してからドアを出た。
「よーし、帰ろっか、れーくん!」
「ああ。――あと、優奈も帰るって」
「お姉ちゃんも一緒? 帰ろっか!」
――それから、何か仲良く女子トークを繰り広げているエマと優奈。俺はその会話には入らず階段を降りると、俺らはそれぞれ学年別の靴箱に行く。
「よし、行くぞ」
「うん、行こっか」
俺と優奈は靴を履いて、校門まで歩く。校門の少し前に、一年の靴箱があるのだが、そこでエマが待っていた。
「よいしょっと!」
「あ、ちょ、エマ……」
俺、エマ、優奈の順で横に並び歩いていると、エマが俺の右腕にギュッとしてくる。まあ別に嫌じゃないので離れようとはしないが、ちょっと暑い。
「――なんだよ」
「いやぁ別にぃ? 凄い仲良いなーって思っただけだよ?」
エマの右隣から、ニヤニヤしながら見ている優奈がそう言ってくる。やっぱり毎度思うが、従姉妹なのにエマと優奈の性格が瓜二つで、こうして三人でいると、似たようなのを二人相手にするみたいで疲れる。
「――じゃ、アタシこっちだから。今日はお母さんが迎えに来てるんだー」
校門からでると、俺とエマは左に曲がるのだが、優奈は右に曲がるようだ。なんでそっちに? と思ったが、右に進んだらショッピングセンターがあるため、そこに迎えが来てるのだろう。
「ああ、じゃあな」
「またねーお姉ちゃんー」
手を振る俺らに優奈も振り返し、走っていった。
またもや二人きりとなり、俺はエマの顔を見る。
「じゃ、帰るか」
「そうだね。――あ」
「どした?」
「ちょっと行きたいところあって……。ここのカフェなんだけどどう?」
直行でマンションまで帰ろうとしていたら、エマがスマホの画面を見せてきた。確か、もうちょっと歩けば、見つかるカフェだ。俺は行ったことないし分からないが、風の噂では、うちの学生たちに人気らしい。
「じゃ、行くか。――あ、でも、俺今日手持ち少ないぞ? そこめっちゃ高かったりしないよな……?」
「だいじょぶだいじょぶ! この辺出身の友達みんなに聞いたら、めっちゃ安いって言ってたよ?」
「そうか? じゃ、行くか」
「やった!」
満面の笑みで、さっきよりも強く抱きついてきた。ちょっと腕が痛いなぁとは思うが、何も言わず歩きだす。
「ねぇ、ちょっと歩くの早いよー。ペース合わせて?」
「えー。まあ良いけど。――これくらいか?」
「うん! これくらいこれくらい!」
歩幅を合わせ、いつもよりは少しだけ遅く歩く。
「――ん、髪にゴミついてる」
エマの髪が金髪だからよく見えたのだが、エマの左耳のちょっと上くらいにホコリ? のようなゴミがついていた。
俺がそれを取ると、エマは「ありがと」と言ってきた。
「ああ。――って、もうそろそろ着くな」
あと三十メートルくらいで、目的のカフェに到着だ。
「――入るか」
カフェの前に着き、俺はガラスの扉を開ける。中は結構オシャレで、色んな装飾がなされていた。それに見とれていると、店員さんが来て、
「二名様ですか?」
「あ、はい。そうです」
「ではあちらの窓側の席へどうぞ」
「ありがとうございます」
席に案内してくれた店員さんに感謝を伝え、俺らは窓際にあった席に座る。
「結構洒落たカフェだな」
「だよねー。れーくんは何頼む?」
「うーん。――あ、このパフェ美味そうだし、これにするか」
メニュー表を開くと、イチゴがたくさん乗ってる美味そうなパフェがあった。だから、俺はこれを食べようと決めると、エマも「じゃ、アタシもそうするー」と言った。
「あ、すみませーん。このイチゴパフェを二つお願いしまーす!」
水を持ってきてくれた店員さんにエマがすぐ注文し、店員さんは厨房に向かっていった。
「はぁ、喉乾いた」
ガラスのコップに入った水を飲み、喉を潤す。そして、店内のインテリアを眺めていると、プルル、っと電話が鳴る音が聞こえた。
しかしそれは俺のではなく――、
「あ、ごめんごめん! お母さんから電話だ! ――Hallo?」
エマの電話だった。昨日、俺に電話してきたときは流暢な日本語を話していたエマのお母さんだが、ドイツ人なので、エマと二人きりで会話するときはドイツ語で喋っている。
俺には会話の内容が聞こえないから、何の話をしているか分からないが――。いや、分かるわ。だって、
「Ob ich mich gut mit Rei-kun verstehe? Natürlich ! Wir sind total verliebt !」
エマの話してるドイツ語の内容からして、俺について喋ってるんだろう。そりゃ、突然男の幼馴染の部屋に住み始めた娘を思うのは当然のことだろうが、先に仕向けたのはそっちだけどな?
――ってそれよりも、エマから聞き捨てならない言葉が聞こえたから俺は訂正しよう。
「Was verliebt? Wir sind doch kein Paar」
電話の奥には通らないように、エマに向かって小声で呟く。すると、なんかちょっと頬を膨らませて不機嫌になってしまった。
いや、でも、もしおばさんに俺らが付き合ってないのに、付き合ってると誤解されたら大変そうだし。
――それからしばらく、エマはおばさんと会話のラリーを続け、――終わったようだ。
「ふぅ。ねぇれーくん、恋人じゃないとラブラブって言っちゃダメなの? アタシたち相思相愛でしょ?」
「いや、なんか恋人じゃないのにラブラブってのは変じゃね? 俺の感覚の問題か? それに、相思相愛って程じゃないだろ」
「そうだよ! アタシはれーくんのことをた、大切に思ってるし、れーくんもアタシのこと大切でしょ? アタシのためにドイツ語も覚えてくれたじゃん? それって、相思相愛でラブラブじゃん?」
――いやまあ確かに、俺はエマのことが大切だし、子供の頃、エマと話すためにドイツ語も覚えた。
しかしそれだけで相思相愛でラブラブというのは……。
――あまりにも早過ぎないか? それとも、俺の感覚の問題?




