第6話『ジャージを間違えた、体育の時間』
――昼休み終了のチャイムが鳴り、女子たちは全員いなくなった。なぜなら、次の五限は体育だ。昼飯の後で辛いが、授業に組み込まれているので仕方ない。
「体操服着て……ジャージも……。――は」
体操服とズボンは履き替えた。そして、ジャージを上から着ようとしたのだが、取り出したジャージを見て俺は動きが止まった。
なんか、俺のじゃない匂いがする。
「なんだこれ……こんな柔軟剤使ってな――。あ」
気づいた。これ、俺のジャージじゃない。エマのだ!
間違えて入れてきたのだろう。となると、エマは俺のジャージを持ってるはず。
「取りに行く……いや、無理じゃねえか」
取りに行こうと思ったが、やめた。無理なのだ。この学校は一学年に八クラスあるのだが、体育の授業は一年の二クラス、二年の二クラス、という感じで行うのだ。
そして、俺は二年二組、エマは一年一組だ。同時に授業があるため、無理だった。
「仕方ない。これ着るか。多分怒ったりはしてこないだろ」
良かったことに、俺とエマは身長がほぼ一緒だ。多分、同じサイズを買っているだろう。
――そして、着てみるとやはり俺と同じサイズだった。
――が、しかしだ。何か、違和感がある。
「……なんかダボッとしてる? 胸周りがめっちゃ楽になってるな……」
何か、胸周りが楽だ。なんでだろう、と思ったが、すぐ分かった。
――エマ、胸大きいんだった。
「それにしても、一年は今日から体育だってのに、こんななるか? あいつ、学校の服買ってから結構これ着てただろ」
体育は今日からだというのに、エマが初めて着るはずのジャージの胸周りが楽なのはおかしい。真偽は分からないが、多分、服を買ってから、エマが何回も着ていたのだろうと俺は結論づける。
「――あ、やべ、早く体育館行かないと!」
刻一刻と迫る時計を見て、俺は教室から出ていった。
◆◇◆◇
「――で、体育のオリエンテーションは終わります。これからの授業では、一年が外、二年が体育館で授業を行いますが、今日は自由なので好きなことしていてください」
体育の先生による、これから一年間の授業の説明が終わった。一年と二年それぞれの二クラスが体育館にいるが、自由と言われ、何人もの男子生徒は「サッカーしようぜ」と言って、外に出ていった。
――一方、俺はというと、
「別にやることないんだよなー。お前どうする?」
「僕もすることないからね。バスケやってる人たちいるし、混ざろうかな」
幼稚園からずっと一緒の親友で、同じクラスである久我湊と、体育館の壁を背もたれにしながら話していた。
湊は爽やか風のイケメンで、勉強も運動も出来る文武両道なため、めっちゃモテモテだ。
――まあしかし、実は湊はエマの従姉妹である弥優奈と付き合ってるのだが。
「俺はここいるから、混ざってくれば?」
「そう? じゃあバスケしてくるね」
そう言う親友に、俺は「おう」と返すと、そのまま地面に座る。そして、バスケをやってる湊を見るのだが、これはまた上手なものだ。
俺はバスケのルールが分からないのだが、それでも上手いなあと思う凄さが見せられる。
――そうしていると、声をかけられた。
「れーくん、何してるの?」
「エマ? 何もすることないから、湊を見てるだけ」
「ああ、お姉ちゃんの彼氏の?」
「そうそう。お前も座れば?」
俺は自分の横を手のひらで叩く。すると、エマは嬉しそうな顔をして座り、くっついてきた。
「近いな」
「れーくんが座ればって言ったんじゃん? 近づくに決まってるでしょー」
「はいはい。――って、そうだ、ジャージが……」
「あ、これ、れーくんのだよね? アタシのじゃないなーって思ったけど、入りそうだし着てみたんだ」
エマも、俺のジャージを着ていた。同じサイズだったし、入るのも当然か。――そう思うのだが……。
「……エマ? なんかキツそうじゃないか?」
「え? ああ、なんか胸周りがキツくて。伸びちゃったらごめんね?」
「いや、それは別に良いけど」
俺のジャージのため、胸周りがキツそうに見えていたのだが、やはり、キツかったらしい。だったら、
「じゃあ着替えるか。俺も脱ぐから、エマも脱いで」
ジャージを脱いで、交換しよう。そう提案したのだが、エマは「待って」と言って、着ている俺のジャージを握っている。
「このままで良いから。うん、このままが良い」
「そう? ま、良いけどな」
――別に、会話はない。しかし、気まずいことはなく、普通に安心出来る。俺はただ、バスケをしている湊を見て、「あー上手ー」と思っていると、エマが「ねぇ」と話しかけてきた。
「今日さ、アタシのためにカレーパン買ってくれたんでしょ? お姉ちゃんが言ってたよ?」
「ああ、お前も弁当買ってないと思ってたから、一応買ったんだよ。で、持っていこうとしたら、お前が男子に囲まれてて、行くタイミングを見失ったってわけ」
「あーだからお姉ちゃんが持ってきてくれたんだ。不思議だったんだよね。買ったんだったら、自分で渡せばいいのにって」
なんで俺が渡しに来なかったんだろうと、エマは思っていたらしい。で、俺の説明で納得したエマは胸の下で腕を組んでいっぱい頷いた。
「やっぱ、れーくん優しいよね? アタシ、れーくんのそういうところ大好きだよ♡」
「ああ、ありがとう」
俺がそう答えると、エマは俺の右腕にぎゅーっとし始めた。「力強!?」とも思ったが、幸せそうな笑顔をしているし、離すのも可哀想だ。
――それに、嫌な気持ちもしないしな。




