第5話『エマの従姉妹』
「エマはね、この一年間ずーっと楽しみにしてたんだよ? 零と同居するの」
エマの従姉妹、優奈が俺の隣の席に腰をかけ、そう言った。
「楽しみに? なんで?」
なんでエマが楽しみにしてたのか分からない。別に、何か面白いことがある訳でもないのに。
そう思って優奈に尋ねると、
「えぇ……マジで言ってんの……?」
「なんだその顔」
「いや、なんでもないよ別」
なんか引き気味の目で見られてるが、意味が分からず俺は首を傾げた。すると、優奈はため息をついてそう答え、
「――それで、エマとの生活はどんな感じ? 楽しい?」
「まあ、今まで一人暮らしで部屋が静かだったからな。あいつ明るくて騒がしいし、前より楽しく――。なんなんだよその顔は」
せっかく質問に答えてやってるってのに、優奈はニヤニヤしながらうんうんと頷く。
なんでそんな顔してんだという質問を受け、優奈は、
「仲良くやってるなーって思って。エマのこと大切にしてあげてよー? エマが悲しんでたら許さないからねー」
「分かってるって。――そろそろHR始まるし、席つけば?」
「あ、ほんとだ」
時計を見て、そろそろ担任がやってくるなーと判断した俺が教えると、優奈はすぐに自分の席に戻っていった。
――それから数分すると、担任が入ってきて、
「じゃ、HR始めるぞー」
◆◇◆◇
「あーキツかったー……」
古典、数学、数学、英コミュという朝の四限はキツすぎた。新学期だし、内容は全然難しくないのだが、五十分授業がかなり身体に来る。
机にだらーっとする俺。次は昼休みで昼食を取らないと。
――昼食、昼食。あ、しまった。いつもなら、学校に行く途中のコンビニで弁当を買うのだが、今日は忘れてしまっていた。
一応、学校の購買でも弁当は買えるが、その分はほぼ三限目の休みまでで売り切れになっている。だから、今日は弁当は買えない。
「はぁ、しくったな……」
とは言っても、パンは売ってるし、それで我慢するか。
俺は財布を持って、教室を出る。
廊下を歩き、階段を降りて購買まで向かった。
「パン一個お願いします」
購買の人にそう伝え、俺はカレーパンを一個買った。そして、立ち去ろうと思ったのだが、
そういえば、エマも何も買ってないよな。三限までに弁当買った可能性もあるけど……。一応、買っとくか。
「あ、すみません、もう一つお願いします」
そう言って俺はカレーパンを二つ持ち、校舎に向かった。
俺らの校舎は、二階が一年生で三階が二年生だ。だから、教室に戻る前に一応、エマに持っていくかと思った。
「エマは一年一組だったか」
二階で止まり、俺は一組の教室に行こうと方向を変えた。で、少し前に歩き、右を向くと――、
「な、なんじゃありゃ……」
廊下の奥に、大量の一年男子が集まっているのが見えた。別にそこにトイレがあったり、水道があったりする訳じゃないのだが……一体何があるんだ?
そう思ってさらに覗き込むと、――金髪が見えた。
「……エマ?」
この学校で金髪といえば、ハーフのエマしかありえない。となると、エマに大量に男子生徒が集まっているのだ。
「うわー大変そう……行くのやめとこ……」
「ねぇ、零、そこで何してんの?」
「うおっ!? ――って、優奈かよ。驚かせんな」
これじゃ、カレーパンは渡せそうにないな。教室に戻ろうとして振り向こうとした矢先、後ろから声が聞こえて情けない声が出てしまう。相手がまだ優奈で良かった。
「いやーだって何してんのか気になって」
「ああ、今日弁当買うの忘れててさ、購買でパン買って、エマに渡そうとしたんだが……」
「へーいいじゃん。渡せばいいのに」
「それが出来りゃ、ここで止まってねえよ。あれ見ろ。あれ」
俺が指差すところを、「えーなになに?」と言いながら見た優奈。すると、優奈は「あー」と言って、
「エマモテモテだねぇー。人多いし、持っていけないのかー」
「そういうこと。――仕方ない。カレーパン二個食うか」
「――アタシが持っていこっか?」
「え、マジ? じゃあ頼む」
これは行けないなーと悩んでいたのだが、優奈が引き受けてくれた。俺からカレーパンを奪い、ちょっとしたダッシュでエマの方に向かっていった。
――三分くらいすると、優奈が戻ってきた。
「はい、渡せたよ」
「ああ、助かった」
「エマも弁当買ってなかったんだって。だから、めっちゃ喜んでたよ? 零が買ってあげたの教えたら」
「そっか。それなら良かった」
喜んでくれたなら、良い。家に帰ったら、改めて感謝して欲しいものだ。
――そういえば、あの男子たちはなんでエマを囲んでいたのだろうか。
「なあ、そういや、あの男子たちって何してたんだ?」
「あれはね、弁当を持ってこなかったエマに、何か買ってあげようとする人と、エマと一緒にご飯を食べたい人たちの集まりだよ」
「あれが!? 二十人以上はいたぞ!?」
なんかもう早速お姫様みたいな扱いを受けてやがる。これには驚きの声しか出ない。
「ま、アタシのエマちゃんはモテモテだもんねー。仕方ないかー」
「あんなモテるもんなの? びっくりしすぎて言葉出ないんだけど」
「そりゃ可愛いし、明るくて元気だし、好きにならない要素なくない?」
「すっげえシスコンみたいな言い方だけど、まあ、そうだよな。好きにならないわけはないのか」
従姉妹の優奈が言っているから、身内びいきのように感じるが、俺も優奈とは同じ考えなため、否定はできない。――いや、これは幼馴染びいきになるのか?
――って、それより……。
「ん、零? どうかした?」
「いや、なんでも、ない」
俺が急に胸を抑えたのを見て、優奈が心配そうにしてきた。別に、病気とかそういうんじゃない。平気だ。
ただ、何か――
心臓がギュッと握られるような、変な気分がした。




