第4話『悪い、まだ生きてたいよ』
「……エマ」
「んー? なにー?」
「お前近いんだよ……もうちょっと離れろ」
マンションから出て、学校までの通学路を歩く俺とエマ。ただ、エマはずっと俺の右腕にぎゅーっとしがみついていて、離れようとしない。だから離れろと言ったのだが、「無理ー」と言って、さらに腕を強く締めた。
「はぁ。――あ、そういや、エマ、部活とか決めたの?」
「いや、決めてなーい。ていうか、何の部活があるのかまず分からないし」
「まあそれもそうだな。お前、中学のときはバレーやってただろ? またバレーで良いんじゃね?」
エマは中学のとき、部活はバレーをしていたのだが、これはまた上手なものだった。俺も遊びで付き合わされたことが何度かあるのだが、ボコボコにされた記憶しかない。
俺の提案に、エマは「うーん」と喉を鳴らすと、
「それが一番無難かなー。――そういえば、お姉ちゃんが天文部に入らない? って連絡してきたんだよねー」
「ああ、あいつが作ったんだもんな、その部活」
エマがお姉ちゃんと呼ぶ存在。それは、俺と同学年であり、なんなら同じクラスにいる。――まあ実際には、エマの実の姉妹というわけではなく、父親が兄弟同士の従姉妹関係だ。
俺にとって、エマほど親しい人物では無いが、幼・小・中・高と一緒で、普通の友達である。
――さて、そんな彼女はエマに天文部に入ってほしいようだ。しかし、別にエマは星が好きじゃないため、断るだろう。
――と、思った考えは的中する。
「お姉ちゃんには悪いけど、アタシは天文部って感じじゃないんだよねー。れーくんはどう思う?」
「うん、お前には似合わないな!」
「だよねー!」
――なんて会話をしていたら、かなり学校まで近づいてきた。他学年に知らない生徒たちも増え始め、ゾロゾロと校門に人が入っていくのが見える。
それと同時に、俺はなんか妙な視線を感じるようになった。
「……なあエマ」
「どしたの?」
「なんかめっちゃ視線感じない……? 怖いっていうか、めっちゃ寒気するんだけど……」
「え!? 寒気するの!? 風邪!? ――うーん、おでこ大丈夫だねー」
わざとなのか天然なのか知らんが、俺が寒気がすると言ったのを、風邪の症状だと勘違いしたらしい。マジで驚いた顔をして、俺の額を触るが、全然熱くなくて安心したようだ。
俺は、「そうじゃねえよ」と言ってエマの手をおでこからどかす。
「なんかめっちゃチクチク視線感じるんだよ……気持ちわりぃ」
「うーん、誰か見てるのかなぁ……」
そう言いながら周りを見渡すエマ。俺も同様に顔を左右、そして後ろを確認していると、あることに気づいた。
――あれ、全員一年だよな?
うちの学校は、学年によってリボンやネクタイの色が違う。俺たち二年生は青だが、エマたち一年生は赤色だ。
で、周りには赤いネクタイをつけた男子たち――つまり、一年生が大勢いる。
そりゃもちろん通学路なので、いるのは当たり前だ。しかしその全員が、恨めしそうに俺を見ている。
「なんであんな見てんだ……?」
俺がそう小声で呟くと、エマが反応して、
「え、誰が見てたの? 誰誰?」
そう言いながら後ろを振り向く。その瞬間、だ。俺を見ていた男子生徒たちが一気に目を逸らし、慌てだしたように見える。
――あー、そうか。そういうことか。
なんで見られていたのか理解した俺は、エマからちょっと距離を取る。
「え!? れーくんなんで離れるのー? 許さないよ?」
プンプンと、頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべるエマを俺は見つめ、
「悪い、お前とくっついてたせいで殺されたくねえよ。まだ生きていたいよ」
「えーなにそれ? ムカつくー」
腕を胸の下で組んでそう言うエマ。別に、俺だって離れたくて離れた訳じゃない。だって仕方ないだろう?
あの反応からして、周りにいる男子生徒たちは、昨日エマに一目惚れしたのだろう。
だからこそ、エマと馴れ馴れしくしている俺が気に食わないのだ。
――悪いエマ、まだ殺されたくねえわ。
◆◇◆◇
「あーこっわ。なんであいつあんなモテてんだよ……」
俺の教室、二年二組に入り、自分の席についてちっちゃく嘆いた。別に変に絡まれることなくエマと分かれ、普通に俺はここまでやってくることが出来た。
エマがモテてるのに「さすがだなー」と思うと同時に、何か変な気分もある。
――ま、関係ない。今日から六時間授業が始まる。春休み明け久々の長時間だから、頑張らないとなーと思っていると、右肩を叩かれた。
「よ、零。エマと住み始めたんでしょ? どうよ?」
「……お前も知ってた側か?」
「さぁ? なんのことかワカンナイナー」
白々しい演技をする彼女を見て、俺は「はぁ」とため息をつく。
「ほんと、直前まで言わないのどうかしてるだろ……。エマもおばさんも。――お前も知ってたんなら、お前もな」
「ま、良いじゃん良いじゃん。サプライズってやつよ」
「……はぁ」
この態度といい、発言といい、エマととても似ていて血を感じる。
――そりゃそうだ。なぜなら彼女――弥優奈こそが天文部を作った、エマの従姉妹なのだから。




