第3話『幼馴染との新たな一日』
「ん……」
――うるさい目覚ましで、俺は目を覚ました。顔認証でロックを解除し、アラームを止める。そして眠い目を擦り、ベッドを見ると、
「うおっ!? ――って、そうか、エマも一緒に……」
俺のベッドで無防備で気持ちよさそうに寝ているエマの姿が目に入り、驚いてしまう。が、俺の部屋で住み始めたんだったなと思い出し、心を落ち着かせた。
「エマ、起きろ。朝だぞ」
こんな気持ちよさそうに寝ているのを起こすのは可哀想だが、今日は学校。残念。起きてもらうしかない。エマの肩を揺らしても起きないため、肩を持ってそのまま無理やり起こす。
「Hmm……Guten Morgen ……」
「Guten Morgen . Geh dein Gesicht waschen 」
「Na gut,ich mach‘s ……」
ベッドから降りて、フラフラと歩くエマを支えながら、俺は洗面所までエマを連れて行った。ジャーと水道を流し、エマに顔を洗うように急かす。
エマは、「Hmm……」と、唸りながら手で水をすくって、何度か顔にかける。そして、俺が手渡したタオルで顔を拭くと、
「ふぅー! おはよ、れーくん!」
「……お前切り替え早いな」
「? 何が?」
「いや、なんでもねえよ」
顔を洗ったら、いつも通りの元気な姿に戻った。――昔から、エマは朝起きて顔を洗うまでの間、ずっとドイツ語が出てしまうのだ。
しかし、エマ本人としては気づいていないのか、顔を洗ったらすぐいつも通りの日本語で喋るようになる。
――顔洗いに変なスイッチでもあるのか? と、俺は不思議に思っている。
「ねぇねぇ、朝ご飯何食べたい?」
「え? 作ってくれんの?」
「そりゃもちろん! アタシ料理上手だし、たっくさん美味しいご飯作ってあげるよ!」
朝っぱらから無駄に元気だなと思いつつも、俺はエマに朝食を任せることにした。これも昔から知ってることだが、エマは普通に料理が上手いし、美味い。マジで簡単なものしか作れない俺と比べたら、天と地ほどの差がある。
「ふんふんふーん〜」
なんか陽気に鼻歌を歌いながら、エマはキッチンに向かって朝食を作り始めた。だから俺は、先に制服に着替えることにした。
クローゼットにかけているシャツとブレザー、そしてズボンを取って、とっとと着替えた。
「よし。――あ、エマの制服持っていくか」
で、エマが朝食を作っているため、俺はそのままクローゼットにかけてあったエマのシャツ、ブレザー、スカートをそのまま取って、リビングまで歩く。
「ふんふんふーん〜!」
未だに陽気で歌っているエマを見て、
「エマ、制服をカーテンのところに掛けとくからな」
「あ、ありがとー! 椅子に座っててー」
カーテンにエマの制服を掛け、俺は「ああ」と小さく返し、椅子を引いて座った。
――それから一分くらいすると、エマが食器を運んできた。ご飯に目玉焼きにお味噌汁といった、普通の和食だ。
正直、なんかドイツの朝食を作ってくるかと思ってたため、驚いた。
「よいしょっと!」
「……なんで隣?」
俺の隣の椅子に座ったエマに、そう尋ねた。だって、このテーブルは四人用で、俺の前方にも二つ席がある。だから、なんでわざわざ隣に座ったのか分からなかった。
「ま、良いじゃん良いじゃん。食べよ? いただきまーす」
「うん。いただきます」
答えてくれなかったのを無理に聞く必要はない。箸を持って、食べる。そしたら、めっちゃ美味しかった。
ちっちゃい声で「美味いな……」と言いながら食べていると、エマが何か思いついたように「あ」と言った。
「そういえばさ、昨日聞くの忘れてたんだけど、れーくん二年生なったじゃん? 新しいクラス慣れた?」
「いや全然。ま、去年からの友達も結構いるし、良いかなって。そういや、昨日めっちゃ男子が集まってなかった? あれ何だったの?」
俺がそう尋ねると、エマは「あー」と喉を鳴らし、
「なんかね、アタシの連絡先教えて欲しいって三十人くらいに言われてさー。ほんとモテる女は辛いねー」
「それ自分で言うのか……」
まあ正直、俺から見てもめっちゃ良い子だと思う。いつも元気で人懐っこいし、これは俺が聞いてないだけなのかもしれないが、エマが人の悪口を言ってるのは今まで聞いたことない。
流石に初日から三十人が集まってくるのは異常だと思うが、それでもモテるのは申し分ない。
――そんな話をしていたら、すぐ食べ終わった。今日は結構早く、七時には起きたのだが、まだまだ時間に余裕がある。焦る必要は無さそうだ。
「歯磨き歯磨き……」
食器をシンクに置き、俺とエマは洗面所で歯磨きをする。一、二分して水で口をゆすぎ、またリビングに戻ろうとすると、エマに止められた。
「ん? なんだよ」
「アタシ着替えるからさ、ちょっと待ってて?」
「あー良いよ。分かった」
そうか、まだエマはパジャマだった。そう理解して俺が答えると、エマは着替えるために、リビングに戻ってドアを閉める。
「カバン持ってってやるか」
エマが着替えている間に、俺はベッドルームに戻って自分のカバンと、エマのカバンを取った。
――そして、ベッドルームを出たら、ちょうど同じタイミングでエマもリビングから出てきた。
「あ、カバン持ってきてくれたんだーありがとね!」
「ああ。ほら」
太陽のように明るい笑顔で、俺の腕にぎゅっと抱きついてくるエマ。
俺はエマにカバンを渡し、俺らは靴を履いて立ち上がる。
「じゃ、学校行こ?」
「うん。行くか」
そう言って、俺らは玄関から出た。
――こうして、俺は幼馴染との新たな一日が始まった。




