第2話『俺の部屋に住み始めた』
「――? 何ぼーっとしてるの? 入りなよ」
「入りなよって、ここ俺の部屋……。って、なんで俺の部屋の鍵持って……」
俺が鍵を持っているにも拘わらず、エマは懐から取り出した鍵でロックを解除し、部屋の扉を開けた。俺は、エマに合鍵を渡した覚えもない。
唖然と止まっていると、痺れを切らしたエマに腕を引っ張られ、部屋に入れられた。
「ど、どういうこと……?」
そう呟くが、エマには聞こえていないようだ。靴を脱いでルンルンでリビングに向かうのを見て、俺はため息をついた。
――その時だった。
「ん? 電話か」
ポケットに入っていたスマホが突然振動し、手に取って誰からの電話か確認する。すると、それはエマの母親からの電話だった。だから、俺は出た。
「……はい」
『あ、零くん久しぶりだねー。どう、元気?』
「うん、まあ元気だけど。……それより、エマがうちに来てるんだけどさ。俺の部屋の鍵持ってて……」
『私が渡したからね。エマのこと頼んだよ』
――いや、いやいやいや。勝手に話を進めないで欲しい。頼んだよと言われても、だ。何言ってんのか、話が全く読めない。
『? 聞こえてる? 電波悪いのかな』
「いや、そうじゃなくて、びっくりして黙ってただけ。急に頼んだって言われても。なんで俺の部屋の鍵持ってるわけ?」
『それは、零くんのお母さんから預かってたんだよ。零くんが地元から離れた高校に行くって話を聞いたら、エマが零くんと同じところに入る! って言ってて』
そこで区切って、おばさんは続けた。
『で、それを零くんのお母さんに話したら、来年エマが一緒に住めるように鍵渡してくれたの』
――と、それを聞いて、俺は「ん?」と思った。一緒に住む? え? はぁ? エマと、一緒に?
「一緒にって……え?」
『うん。だから、エマのこと頼んだよって。そのために、めっちゃ広い部屋選んだんだからー! ――じゃ、よろしくねーバイバーイ」
「あ、ちょ……!? ――切られた……」
――完全にやられた。この一年間、このバカ広い部屋をなんで両親は選んだのかと思っていた。しかし、それは全て、一年後にエマが来た際、二人で住めるように選んだというわけだ。
「まじかよ……」
両家の策略に乗せられ、俺は小さく呟いた。
◆◇◆◇
「あーごめんごめん! 荷物多くてさー」
「別良いけど。――って、荷物多すぎじゃね? 何があるんだよ」
エマの母からの電話が途切れて、結構すぐのことだった。エマの荷物がダンボールに包まれて次々と部屋に届いた。で、今はそれを広いリビングに置いたところである。
「服とか、勉強道具とか、その他もろもろだよ。あ、服をクローゼットに入れていい?」
「ああ。俺持ってる服少ないから、全然スペース取ってないし」
「ありがとー」
俺が許可すると、エマは服の印がついたダンボールを持って、クローゼットまで歩いていった。
「ったく、なんでこんな突然なんだよ……。事前に言ってくれ」
別に俺はエマのことが嫌いなわけじゃない。幼馴染で、友達としてめっちゃ仲良い自信あるし。それにしても、何か事前に一言は言って欲しかった。
『サプライズってやつよ』
それは、さっき学校でエマが言った言葉。なーにがサプライズだよと思うが、エマがそう思ってるなら、別に良い。
それにまあ、両親やエマたちと喋ることは長期休みのときしかなくて少々寂しかった。部屋も一人で静かだったし。なら、一人くらい騒がしいやつが増えても良いだろ。
――いや、ダメだろ。俺とエマは同性じゃなくて男女だ。いくら仲良い男女でも、一緒に住むのは流石に……。
「ふぅー終わった終わったー。あれ、れーくんどしたの?」
俺がそう悩んでいると、クローゼットに服を詰め込んだのか、エマは戻ってきた。
「俺の部屋に住む必要あった? って思ってさ。一応、俺たちそういう年齢だし、一緒に住むのは……」
「えーなになに? アタシのこと意識してんの? ま、アタシ可愛いし仕方ないよねー」
すげえ笑顔で俺の頬をつんつんしてくる。俺はその手を取ってため息をつき、「やめろ」と言う。すると、頬を膨らませて「ちぇー」とエマは不満そうに嘆いた。
◆◇◆◇
――もう、夜だ。色々あった一日だったが、後はもう寝るだけ。昼ご飯や夜ご飯はエマが作ってくれたのだが、めっちゃ美味かった。
で、俺とエマは風呂を終えて、今は二人でリビングのソファーに寛いでいる。
「もう十二時だし、そろそろ寝るか。――あ、お前どこで寝るんだ?」
「アタシ? れーくんと一緒に寝るつもりだったんだけど」
「はぁ!?」
そういえばこいつは布団すら持ってきてなかった。マジで、俺と一緒に寝るつもりらしい。いや、流石に、高校生の男女が一緒に寝るのは何かまずい。
「――お前がベッド使え。俺はこのままソファーで寝るから」
「えーなんで? 一緒に寝ればいいじゃん」
「なんでって、男女が一緒に寝る訳には……」
「でも、昔はよく一緒に寝てたじゃん?」
――それは、そう。だがそれは確か俺が中一くらいまで。流石に今も一緒に寝るのは、良くないと俺は思うが。
だが、俺はエマのその言葉に上手く返す言葉が見つからず、詰まってしまった。
言葉が出ず、困っていると、エマが少し悲しそうな青い目を向け、俺の袖を掴む。
「アタシと一緒に寝るの、嫌……?」
「――。嫌じゃないよ」
「じゃあ、一緒に寝よ?」
「……うん」
そう答えると、エマは一気に、ぱあっと太陽のような明るい笑顔に変わり、俺の手を取ってベッドまで歩き出した。
――全く。あんな顔されたら、断れるわけないだろ?




