第26話『楽しい海の時間』
「――わーすごい! 綺麗な海だね!」
「ほんとだな。これなら電車で二時間かけて来た甲斐があった」
水着を買ってから五日経ち、俺らは海に遊びに来た。ここは県で有名な海だから、やっぱり人は多い。それでも広いから、特に気にならないくらいの人数だ。
俺は黒いサーフパンツを履き、エマはフリルがついた水色の可愛い水着を着ている。ほんと、よく似合ってるな。
「じゃ、海行くか?」
「あ、その前に日焼け止め塗らないと。今日暑いから、焼けちゃうよー」
そう言って、エマは日焼け止めをビーチバッグから出した。しっかりしてるな。今日は普通に暑い。俺も塗らないと、肌が真っ赤になってしまうだろう。
「塗り終わったら貸してくれ」
「うん! いいよー。あ、そうだ。アタシの背中塗ってくれない? 手が届かないからさ」
「わかった」
俺は日焼け止めクリームを手に取ってエマの背中に塗り始める。
――こいつ、意外と肌柔らかいな。まあ、女の子だから当然なんだけど。
「――こんなもんか?」
「うん! ありがと! じゃあ次れーくんの番ね! 背中塗ってあげる!」
「ありがとう」
俺が顔、上半身、下半身に塗ると同時に、エマが後ろから背中に塗ってくれる。感覚過敏という訳では無いが、手が何度も触れるのはちょっとくすぐったい。
「どうしたのれーくん? アタシの手が背中にあるとドキドキするとか?」
「ちげえよ。くすぐったいだけだ」
「ふーん。そっか。ま、いいや! 今日は楽しもうね!」
「ああ、それはもちろんだ」
張り切っているエマに向けて、俺は笑ってそう言った。すると、エマは太陽のような明るい笑顔になり、俺の右手を引っ張っていく。
「あ、おい……」
「いいからいいから〜!」
――まあ、はしゃいでるし、このまま付き合ってやるか。――相変わらず力強。
「――ほら、れーくん!」
「あ、お前、やったな!? ほら!」
海に足を入れるとすぐに、エマは水を飛ばしてきた。だから俺は海を蹴って水しぶきをエマに飛ばす。
――そのやり合いを何度も何度も繰り返していたら、お腹が空いてきた。
「あそこ、かき氷が売ってるんだって! 行こ!」
またもや強い力で引っ張られていく。エマが行こうとしてる方向を見てみると、木の建物があった。へぇ、客もいっぱいいるな。
「――イチゴ味のかき氷と、ブルーハワイのかき氷を一つずつお願いします」
「はいよ。ちょいとお待ち」
大将のようなおじさんに注文すると、慣れた手つきで氷を削って、シロップをかけた。かき氷だから、提供までのスピードが早い。もう、できた。
「ありがとうございました」
俺がイチゴ味、エマがブルーハワイ味だ。一つ三百円だったし、結構安い方かもな。
「ん〜! 美味しい!」
「だな。量も多いし、今日みたいな暑い日にピッタリ」
「……れーくん、あーんして?」
「え? うん」
エマがスプーンストローでかき氷をすくい、俺の口に突っ込んでくる。
「へぇ、ブルーハワイも美味いな。お前もほら」
お返しに、俺はかき氷をすくったスプーンストローをエマの口に近づける。そしたら明るい笑顔をして、パクッといった。
「どうだ?」
「うん! 美味しいね! ――あ、そうだ、知ってた? かき氷のシロップって味が同じらしいよ?」
「知ってる。確か、色と香りで違う味に感じるんだったか?」
「知らない!」
「知らんのかい」
――そんな談笑をしたり、海で遊んでいると、夕方になってきた。近くにビルがないから、夕焼けがめっちゃ綺麗に見える。
俺とエマは砂浜に座って、波と夕焼けを眺めていた。
「――れーくん、今日は楽しかったね」
「だな。海に来たのとかもう何年ぶりか。お前と来れて良かったよ。ずっと楽しそうだったから、俺も楽しかった」
「アハハ、れーくんにしては真面目なこと言うね。でも、そうだね。アタシはれーくんと一緒にいるのが一番大好きで、楽しいからさ。二人で楽しめたのは嬉しいなー」
「……そっか。――じゃあそろそろ帰るか。二時間かかるから、早く行かないとな」
俺は背伸びをしながら立ち上がると、エマは俺の左手を取ったまま立った。
「どした?」
「まあ、せっかくだしさ? 手繋ごうよ。良いでしょ?」
「あ、ああ。良いよ」
なんで急に手を……。全く、唐突なやつだ。って、エマの手熱いな。大丈夫かこれ……?
――いや、でも……俺も、熱いな……?
◆◇◆◇
電車に乗って席に座ると、俺の左手側に座ったエマは目を閉じて俺の肩に頭を乗せてきた。相当遊び疲れたんだろうな。着くまでこのままにしておいてやろう。
「おつかれ。楽しかったな、エマ」
俺は小声でそう言って、エマの頭を右手で軽く撫でてあげる。
そして左手はというと、
「ち、力強……。外れねえ……」
未だ、エマの右手に掴まれたままである。――しかしまあ、何はともあれ、エマのために海に来たのは正解だったわけだ。
――。あの、太陽のような明るい笑顔が忘れられない。ずっと、脳裏にこびりついている。その上、なんだか身体も熱いし、心なしか心音が早い。
――ま、まさか。まさかな。
――俺がエマを、好きだっていうのか?




