第25話『夏休み』
――一学期の終業式も終わり、今日から夏休みだ。一ヶ月程度あるが、時間を無駄にしないように勉強をしなければ。
――と、言いたいところだが、期末テストで学年三位を取ったエマにまだなにもしてやれてない。この夏休みの間に、どこか遊びに連れて行ってやろう。
「れーくんどうしたの? 考え事?」
「いや別に。――お前、どこか行きたいところあるか? 期末テストで良い順位取ってたし、夏休みだから連れて行ってやる」
「え、マジ!? うーんそうだなぁ。改めて言われたら悩んじゃうね……。あ、海とか行きたいなー」
「まあ夏だしな。だが、俺は水着を持ってないからどうしたものか……」
中学生までは体育の授業で水泳があったため、水着を持っていたが、高校ではなかった。それに、水着は全部実家だ。着れるものがない。
「じゃあ買いに行こ! 今日!」
「今日!?」
「だって早い方が良いでしょ? それにアタシも新しいの買いたいし。じゃ、行こ行こ!」
「お、おい引っ張るなって……」
俺とエマはそのまま、買い物に出かけた。
◆◇◆◇
マンションから歩いて二十分くらいでショッピングモールに着いた。外が馬鹿みたいに暑かったが、店内に入ったら涼しい空気が身体にかかる。
エスカレーターで上がると、俺とエマは服屋の水着コーナーに行く。
「れーくんはどんな水着にする?」
「別にこだわりないし、着られればいい」
「そっかー。アタシはまずサイズ選びから始めないとだもん。最近胸がまたおっきくなってきたし……」
「そりゃ、部活もしないで食べてれば胸だって大きくなるだろ」
「えー信じらんない! デリカシー!!」
……うん。なんか叫ばれたが無視だ。まあ確かに、エマのは大きいからサイズを探すのも大変だろうな。
「つーか、お前はどんな水着か決めてるのか?」
「えっとね、フリル付きの水色の水着にしようと思ってるんだー」
「へー」
「反応うっす! 全くもう。――あ、あれ良さそう!」
そう言って、エマは少し早歩きを始めた。後ろからついて行くと、ちょうど今、エマが言っていたのと同じタイプの水着があった。
「可愛いこれ! これにしよ!」
「サイズはどうなんだ? 試着してみれば?」
「なになに、アタシの水着姿が見たいのー?」
「違うわ」
サイズを選びたいって言ったから、試着を勧めたのになんでからかってくるんだ。これ以上からかわれる前に、俺は水着を手に取ったエマの背中を押して、試着室の前まで連れていく。
「じゃあ着替えてこい」
「はーい!」
元気に中に入っていくエマ。俺が数分待っていると、カーテンが開く。
しっかり、水着は着られたようだ。サイズも合っている。
「へぇ、サイズ合ってるな。キツくないか?」
「うん! 大丈夫! これいいねーめっちゃ可愛い! どう、似合ってる?」
「ああ。似合ってる」
すげえ似合ってる。本当に。まあ元が良いから余計似合って見え――。――――。うん。
◆◇◆◇
「――ねーねー、次はどこ見に行く?」
「別にどこでもいい。特に見たいものない。お前が行きたいところ行けばいいだろ」
俺は買った水着の入った袋を持ちながら、エマとショッピングモールを歩いていた。すると――、
「――あれ、弥さん?」
と、少年が話しかけてきた。年齢は同じくらいか。俺が知らない人だし、エマと同じ一年生かもな。
俺はエマに肘を当て、「誰この人?」というような目を向けた。するとその意図を読んでくれたのか、
「アタシのクラスメイトの子なんだー。いつもアタシに話しかけてくれるんだよねー」
「へー。エマが世話になってます」
俺が軽く頭を下げると、向こうも少し頭を下げてきた。そして、
「あ、いえ……。えっと、あなたは……?」
「――エマのgeliebterです」
「ぷっ……! れ、れーくん!?」
「なんだよ。お前が言ったんだろ? geliebterって」
「そ、そうだけどさあ……!」
顔を赤くしながら頬を膨らませて、俺を見てくる。さすがにからかいすぎたか。まあ、お前がいつもやってることなんだが。
「え、えっと……なんて言いました? 聞こえなくて……何語?」
至極当然のことだが、何言ったかわからない男子は聞き返してきた。
「いやなんでも。幼馴染です」
「お、幼馴染……? あ、弥さん、もしかして付き合ってたり……?」
「い、いやいや、付き合ってないよ。でもまあ? 恋人みたいに仲はいいよねー?」
同居してから約四ヶ月だ。もとから仲良かったのはそうだが、一緒に住み始めて前よりも喋る機会が増えた。
だから、エマの言い分も間違ってないと思う。
「……まあ、否定はしないが」
――俺が肯定の返答をした途端、明らかに男子は残念そうな顔をしだした。「そ、そんな……」とか呟いてるし。
「そ、そっかぁ……えっと……さようなら……」
「うん! じゃあねー」
「……どうも」
あいつ大丈夫か? 地球が終わる日みたいな表情をしてたが。
まあ、通り過ぎていったし、俺はエマに付き合ってやろう。




