第24話『期末テスト』
――あれから、二ヶ月とちょっとが過ぎた。
同居生活ももはや当たり前になり、エマのからかいも、甘えも日常茶飯事だ。
そして、今日は日曜日。明日からついに期末テストがある。
教科は国語、数学、英語、物理、化学、地理だ。満点を逃がさないために、今日も勉強は欠かせない。
「ん……」
朝早く起きて、勉強してから三時間が経過する。時計を見たら九時過ぎだ。
「……おい」
エマと一緒にリビングで勉強していたのだが、ふと隣を見ると、エマはテーブルに顔を乗せて目を閉じている。
寝てやがる。
「起きろ、テストは明日だぞ」
「うーん、だって、集中できないんだもん……」
まだ始まったばかりなのに、なんとも弱気なことを言うもんだ。明日だぞ。もうちょっと頑張れ。
「テストは来週だけなんだから、頑張れ」
「じゃあぎゅーしてよ」
「は? なんでだよ」
「ぎゅーしてくれたら、勉強頑張るからさー。ね、良いでしょ?」
そう言って、もうエマは両腕を開いて体勢に入っている。はぁ、仕方ない。
「ほら、これでいいか?」
「うん! あと一時間くらいこうしよっか?」
「やめろ、俺の勉強時間を減らす気か」
「はぁー。こんな可愛い女の子とハグできる時間が短くてもいいのー?」
「そんなこと言っても、寝るときにずっと抱きしめてるだろ」
ベッドに入ってから朝になるまでずっと抱きしめてるんだから、全然短くないだろ。十分すぎると思うが?
そんな俺の考えを読み取ったのか、
「それはそれ、これはこれだよ? 起きてるときのハグはまた違うじゃん。だから、いーっぱいしよ?」
「……はぁ。十五分だけな」
「四十五分」
「長い。三十分」
頬を膨らませて、ちょっと不満そうにするエマ。勘弁してくれ。明日からテストなんだ。それが終わったら好きなだけハグしてやるから。
◆◇◆◇
それから、元気が出たのか、昼から夕方にかけてエマは集中して勉強していた。
そして夜も、変わらず集中をしていた。――俺が知っていたエマはここまで勉強しなかったのだが、本当に、俺が通ってる学校に来るために勉強を頑張ってきたんだな。と思う。
「んー、眠くなってきた。今日は久々に勉強頑張ったなー」
「おつかれ。ちゃんと集中できたな」
頑張ったエマに労いを込めて頭をなでなでしてやる。「えへへ……」と目を閉じて気持ちよさそうにしてて満足そうだ。
「じゃ、ぎゅーして寝よっか?」
「ああ」
俺はただそう返し、寝室の電気を消す。そしてエマを抱きしめると、そのままベッドに入った。
◆◇◆◇
「――テスト全部返ってきたー! 自慢していい?」
テストは先週終わり、今日は月曜日。エマも俺も、全てのテストの成績を返された。
部屋に入ってソファーに座った途端、エマはカバンをガサゴソと探る。
「あ、あったあった! ほら!」
すげえ笑顔で成績表を渡してきた。さて、どんなものかな。
一クラス四十人が八クラス。つまり、三百二十人いる訳だが、五十番以内に入っていたらなかなかのものだ。
こんだけ自信あるようだし、それくらい取ってるのかも。
そう思って開くと――、
「……え? え? こ、これお前のか? 本当に?」
「本当本当!」
成績を見て、俺は信じられなかった。決して点数が悪いわけじゃない。良すぎるのだ。中学生のときは、バカだったのに。
それなのに、今回はなんだ? 俺は目を擦って、もう一度見る。
うん。しっかり書いてある。――三位と。しかも、全教科総合で。
「お、お前……ほんとにすげえな!? マジか……こんなに勉強出来るようになってたなんて……」
「まあ? れーくんと同じ高校に行くために頑張ったからねー。――いっぱい褒めて?」
「凄い! 偉い! 頭いい!」
「褒めるの下手くそすぎない……?」
なんか不満そうだが、仕方ないだろ。あんまり褒めたことないんだし。――とはいえ、エマの成績には驚きだ。今度、どこか遊びに連れてってやるか。
「あ、そうだ。れーくんの成績見せてー」
「え? あ、ちょ」
勝手に俺のカバンをガサゴソと漁りだした。プライバシーの欠片もない。
俺は何も言わず見つめていると、俺の成績表をエマは取り出した。
「えーっと……れーくんは……? ――はぁ、また一位ですか」
「まあ」
「……は、ちょっと待って!? しかも全部百点じゃん!? なにこれ、バカじゃないの!?」
「バカじゃないからその点数なんだよ」
そりゃ、勉強をしてたから取れて当たり前だろ。それに、凡ミスをしないように集中してテストを受けてたし。
まあ、万全の状態で出せた結果かな。
――って!?
「れーくんほんと凄いねー! 今日はアタシがたくさん甘やかしてあげる!」
急に俺の膝に座って抱きつき、そんなことを言い出してくる。――いや、俺はそれよりもエマになにかしてあげたいんだが。
「えへへ〜」
「ちょ……な、なんだよ」
「偉い偉い〜。頑張ったね!」
エマは身長が高いから、俺の膝に座ったら目線がほぼ同じになる。その状態で頭を撫でてくるんだが……。
――近い。近すぎる。こうしてみると、やっぱり美少女だよな。金髪も青い瞳も、綺麗な顔してやがる。
――そんなふうに思っていたら、エマの口角が上がった。まずい。からかう気だ。
「今、アタシの顔ジロジロ見てたでしょ?」
「……そりゃ、目の前にあるんだし」
「それだけじゃないでしょー?」
「……何が言いたい?」
憎たらしい笑顔で、さらに顔を近づけてくるエマ。俺はちょっと背中を逸らして距離を取っていると、
「War ich zu süß für dich?」
「Nö」
「えー嘘つけ! 嘘だ! アタシのこと可愛いって思ってた顔だったよ!」
「どんな顔だよ!?」
――押し問答は、寝る前まで続いた。
結局、俺は最後まで否定し続けた。――エマに、顔が赤いと指摘されながら。




