第23話『教えなーい!』
「――Hmm……Guten Morgen ……」
「Guten Morgen . Geh dein Gesicht waschen 」
「Na gut,ich mach‘s ……」
相変わらずの朝に俺はドイツ語で返して、エマを起こす。
フラフラしてるエマを支えながら洗面所に連れていき、顔を洗わせる。
そして、俺がタオルで拭いてあげると、
「ふぅーすっきりした! おはよ!」
「ああ、おはよう」
「それじゃあアタシ、朝ごはんとお弁当作ってくるね!」
元気になって、リビングにスキップしながら行くエマ。俺はその後ろ姿を見て少し笑い、ついていく。
昨日は身体が熱みたいに熱かったが、もう平気だ。まさかあいつの言う通り、ドキドキしてたなんて言わないよな ?
「何はともあれ、とりあえず一件落着か」
よそよそしかったエマの態度も普通に戻って、またいつもの生活がスタートした気がする。
やっぱり、あいつは元気な方がいい。――もう少し、抑えてくれてもいいんだけどな。
「……あれ、そういえば、どうしたんだ?」
そうだそうだ、聞くのを忘れていた。エマのやつ、結局バレー部に入るんだろうか。昨日はあんなに楽しそうにプレーしてたようだが。
よし、聞いてみよう。
「エマー」
キッチンで料理してるエマの名前を呼ぶと、「なにー?」と返ってくる。
「バレー部どうするんだ?」
……ん? あれ? 手の動きが止まったな。なんも返してくれないし、まだ悩んでる途中なのかもな。
「あー悪い、まだ悩んでた――」
「――アタシね、やっぱり入らないことにしたんだー」
「はぁ!?」
まさかそう来るとは思わなかった。昨日だって、あんなに楽しそうにしていたのに。チームメイトとも、仲良くなっていたのに。
「えーっと、理由聞いていいか?」
俺がそう聞いたら、エマはまた料理する手を動かしながら、
「練習は楽しかったし、先輩たちも良くしてくれて本当に嬉しかったんだー。だから思ったんだ。別に今入らなくても、やりたくなったときに入ろうって」
「……なるほど。まあ、まだ悩んでた段階だしな。高校生活も始まったばかりだし、急ぐことはないだろ」
うんうん、そうだ。まだ急ぐことはない。このまま部活しない日を過ごして、エマが「やっぱ退屈! バレーする!」ってなるかもしれないしな。
俺がそう考えてると、エマが「それに」と呟く。
「れーくんは、アタシがやりたいことに熱中していいって言ったよね?」
「ああ、言ったな」
「考えたんだよね。アタシのやりたいことがなんなのか」
「ほう? なんだ、勉強か?」
急にやりたいこととか言うから、勉強かなと思ったのだが、「全然違う」と切り捨てられた。全く、じゃあなんだと言うんだ。
「で、やりたいことはなんなんだ?」
「それはね、れーくんとずーっと仲良く過ごすこと!」
「……はい?」
「えーそんな顔しないでよ! アタシ本気で言ってるのにー」
突然なにを言い出すかと思えば……。これまでも仲良く過ごしてたんだから、別に今更そんなこと言わんでいいだろ。
そう言いたげな顔を俺がしていたのか、
「だって、昨日はその……アタシの言葉のせいで、ちょっとぎこちなくなっちゃったじゃん? せっかく一緒に暮らしてるのに、昨日みたいな日はごめんだなーって」
「……まあ、そうだな。それは俺もそう思う」
昨日のような日は、たしかにもうごめんだな。せっかく一緒に暮らしてるなら、会話は沢山したいし、エマにも笑顔でいて欲しい。
――まあ、もう少しからかうのを抑えてくれていいんだけどな。
「――さてさて」
しばらくすると、エマは朝ごはんと弁当をテーブルに置いた。
朝ごはんは、焼いたパンにイチゴジャムを乗せたもの。それと、牛乳、キウイフルーツだ。
「じゃ、食べよっか!」
さも当然のように俺の隣に座り、「いただきます」と言って、食べ始めた。
俺も「いただきます」と言って、パンを口に持っていく。
「熱っ!?」
「アハハ、そりゃそうじゃん! バカなの?」
「バカって言うなバカって」
焼いたばっかだからそりゃ熱いか。舐めてたわ。ちょっとずつ食べていこう。
「――ねぇれーくん」
「ん、どした?」
「結局さ、ほんとだと思う?」
――? 話の内容が掴めん。何について言ってるんだ? もっと具体的に言え。
「何の話だ?」
「だからぁ、アタシがれーくんをgeliebterって思ってるかどうか」
「――!? ゴホッ、ゴホッ! な、何言って……」
危ない、パンを喉に詰まらせるとこだった。牛乳で流し込むと、俺は息を荒らげながらエマを見る。
「ねぇ、どう思うの?」
「え? ま、まあ、お前は俺の事嫌ってないと思うし、……ほ、本当のことか?」
顔をぐっと近づけてきたから、無視する訳にもいかず、俺はそう答える。――近いなおい。金髪も、青い目も綺麗だし……可愛――。
ってそうじゃない。
「……で、どうなんだよ?」
身体が熱くなってきた気がするが、俺は催促するようにエマを見つめる。
――そしたら、ふふっと笑って顔を離し、
「教えなーい!」
と、ムカつくような笑みで言ったのだった。
――ああ、こいつめんどくせえ……。




