第21話『最愛の人』
いつより長いです
「ねー聞いてよ零! さっきさ、天文部に一年生が四人も見学に来たんだよ!?」
「マジで? 意外だな」
放課後、エマはバレー部の体験をしてくると言っていたから、俺は時間を潰すために天文部の教室に入った。そしたら、優奈がめっちゃ目を輝かせながらそう報告してきた。
「にしても、急に四人も来たのか。どんな子?」
「男子一人に女子三人だったんだー」
「ハーレムかよ」
なんだその四人はと思ってつっこむと、優奈は笑いながら、
「男子と一人の女子が双子なんだって! そして、残り二人は幼馴染と友達って言ってたよ!」
「なんかの主人公なのかその男子は」
双子、幼馴染、友達って、属性てんこ盛りじゃねーか。まあ、なにはともあれ、一人で活動していた天文部に人が来て、優奈は嬉しそうだ。
「で、その四人は入ってくれるって?」
「いや? 見学に来ただけなんだけど、アタシが入部届けを書かせたんだー」
「横暴すぎる!」
部長の権力フル活用してやがる。四人の一年生が不憫に思えるわ。
「……ん? じゃあなんで今いないんだ? 活動は?」
「ああ、今日は活動するのめんどくさかったし、『今日は来てくれてありがと。ま、今日はすることないし帰っていいよ。明日から活動しようねー』って言って、帰らせたんだ」
「えぇ……」
せっかく来てくれたのになにしてんだ。可哀想すぎるだろ。
「え、そんな引いた顔しないでよ」
「いやするだろ。権力フル活用でビビったわ」
「――。まあまあ、アタシのことはいいからさ」
「先に話し出したのお前だろ……」
話を変えるのか。まあいい。どうせ、次に来る話はわかってる。
「――それで、エマはバレー部入るのかな」
だろうな。その話になるとはわかってた。
「さあな。今日は体験しに行ってるし、それで決めるだろ」
「零が『過ごす時間が少なくなったら寂しい』って伝えたんだから、入らないんじゃない?」
「だから、俺のたった一つの発言で決めて欲しくないんだよ。あいつのしたいようにすればいい」
優奈は机につっ伏して「ふーん」って呟くと、バッと身体を起こして、
「それにしても同棲って良いなぁ。毎日一緒にいれるじゃん。アタシも湊と早く同棲したーい」
「お前らの惚気話を聞く気はない」
「あらそう。残念」
少しでも隙を見せれば、とんでもない惚気話が開催されるのはわかってる。絶対にやらせないぞ。いつも聞かされるのも困る。
「――あ、もう六時三十分じゃん。エマのこと見に行けば?」
「は? なんでだよ」
「部活終わるの七時だし、楽しそうにしてるか見ればいいじゃん。あと、アタシもこの教室閉めて、サッカー部見に行くから」
「ああ、そうか。わかった。じゃあな」
それもそうか。楽しそうかどうか見に行ってみよう。
俺は優奈に軽く手を振ると、部屋から出ていった。
◆◇◆◇
「――とは言っても、窓からガッツリ見るのは不審者すぎるからな。少しだけ見るか」
窓から覗いたら、ちょうどあの部長さんの声が聞こえた。
「――もう少ししたら、コート整備だからねー」
ああ、そうか。モップがけとか、ネットを取り外さないといけないもんな。まあそれは、俺にはどうでもいいんだが。
気になるのは、エマが楽しそうかどうかだ。
「――――」
――なんだ。楽しそうじゃねえか。サーブもレシーブも上手で、チームを組むのが初めての奴らなのに、連携も取れてる。あんなに、バレーが上手だったんだな。
「……すげえな、あいつ」
俺はどちらかというと、スポーツができない。体力が無いわけじゃないのだが、ボールを上手く扱えないんだ。だから、サッカー部の湊とか、バレー部だったエマを尊敬してる。
――しばらく見ていたら、整備時間に入ったのか、部長さんが笛を吹いた。みんな、タオルで顔を拭いたりしながらコートの整備を始めた。もちろん、エマも。
「……やっぱあいつコミュ力お化けだな」
エマは自分から先輩に話しかけていて、しかもめっちゃ仲良く話してる。さすがに会話の内容は分からないが、そのコミュ力は尊敬に値する。俺にはできん。
――コート整備も終わり、先輩たちはカバンを持って帰り出した。さて、俺もエマを迎えに行くか。
――そのときだった。
「ん? あいつは……」
何やら、男子の一人がエマに話しかけるのが見えた。目を細めて見てみると、そいつは俺と同学年の男子バレー部だった。
俺とはクラス違うし、別に仲良くはないのだが……。なんの話してんだ?
そう思って、俺は耳をすませる。
「弥さんってバレー上手だね。やってたの?」
「あ、はい! 中学でやってまして」
「へーそうなんだ。――えっと、その金髪って地毛?」
「ですよー。アタシ、ドイツと日本のハーフなので」
「良いじゃん。似合ってる。――そうだ、歩いて少ししたらカフェあるじゃん? 良かったら一緒に行かない? 奢るからさ」
なんだ、ナンパかよ。相変わらずモテモテじゃねえか。
――。――――。行かない、よな? だって、エマは俺の――。
「え、今からですか……? それはちょっと……」
「あーダメ? じゃあさ、連絡先交換しない? 空いてる日あったらいこうよ」
そう言いながら、男子がスマホを出しやがった。でも、エマはスマホを出そうとしない。
「ごめんなさい。さすがに出会ったばかりの人と交換するのは無理です」
「え、そ、そう? あれ、でも弥さんって入学式の日に連絡先交換してたんでしょ? うちの後輩も連絡先ゲットしたって言ってたよ?」
ああ、そうだったな。エマは入学式の日、玄関で馬鹿みたいに大量の男子に囲まれてた。連絡先交換をしたって言ってたな。
あ、でもそれなら、なんであいつとはしようとしないんだ?
気になるな、と思って、俺はそのまま耳をすませる。
「たしかに、交換はしました。ですが、そのあと全員ブロックしましたよ。メッセージもたくさん送られてくるし、デートみたいなお誘いも来ましたし」
「あーそうなんだ。大丈夫大丈夫、俺はそういうの送らないから。交換だけでいいからさ」
なんだあいつ、しつこすぎ。――仕方ない。見てられん。エマの手を引いて連れ帰ろう。
俺は、そのまま体育館に入ろうと――、
「嫌です。そもそも、男子と連絡先交換はしたくないんです」
――エマの発言に、男子がちょっとした放心状態になってる気がするが、どうでもいい。連れ帰るならこのタイミングだ。
「エマ、帰るぞ」
「あ、れーくん! 良いよ! 帰ろ!」
180度違う態度が俺に向けられて、男子は「へ?」と呟いて俺とエマを交互に見だした。
「あれ、お前たしか、二組の桐生だよな?」
「そうだけど」
「え? 弥さんとどういう関係?」
――どういう関係? 幼馴染、友達、先輩後輩、パートナー? いや、同居人か? なんて、言えば……。
「――エマ?」
俺の右腕に、エマがぎゅっと抱きついてきた。急になんだよ。
顔を傾け、エマを見ると、なんかちょっと顔が赤くなってきた。バレーで熱がこもったのかな。
そんな心配する俺をよそ目に、エマは男子生徒の目を見る。
「れーくんはアタシの……アタシの……geliebterだから……」
「……はい?」
「え、なんて言った? 何語?」
ドイツ語がわかる俺にはわかったが、目の前のこいつはわからんらしい。そりゃそうだろうが、今の言葉は……え?
「え、エマ? ――ッ!?」
こっちを向いてくるエマの顔が、これまで見た中で一番赤くなっていた。これは、バレーで疲れたってレベルじゃない。
もしかして――。
「れ、れーくん! 帰ろう!」
「え? あ、ああ。帰ろう」
エマの強い力に引っ張られながら、俺らは体育館から出ていった。
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